満足度★★★★
大人のための濃密翻訳劇
ほんとの知的財産とは、こんな劇体験のことを指すのだろう。
立体化した戯曲である。
アフター•トークでカール役の中嶋しゅう が「こんな小さな空間なので、とにかくライブ感だけを考えています」と おっしゃっていたが、確かにこの作品は純然たる「会話劇」には程遠い。
翻訳劇ゆえ「記号」をばら撒いたわけでもない。
この「バラバラな会話劇」(那須 佐代子)は「狂い」と「受容」の白線に立つ、登場人物たちの激情描写だ。
「この家族には誰も 俺の質問に答えるものがいない」という台詞があったが、違う。それは「無視をする」愛情法である。
すなわち、序盤に「硬派」かと わずかばかり感想を抱きつつ、実のところ、三幕を通し、小宇宙(家族)の「友愛」も また捨てきれない、登場人物たちのピュア•エナジーが伺えたのである。そんなカオスが『ボビ―・フィッシャーはパサデナに住んでいる』の愉快さだ。