サラエヴォの黒い手【ご来場ありがとうございました!!】 公演情報 劇団チョコレートケーキ「サラエヴォの黒い手【ご来場ありがとうございました!!】」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    現代への問いかけ!
    集団的自衛権の行使容認の問題や、中国や韓国、北朝鮮との関係など、
    自国内の問題としても、近隣諸国との関係としても、
    緊張感のある状況が続いている現在の日本。

    そんな社会状況に、第一次世界大戦のきっかけとなった事件を描き作品として問うことの意味は大きい。

    前作「〇六〇〇猶二人生存ス」では、日本の特攻の起源を描いていたが、
    脚本の古川健氏は、戦争やファシズムの起源を解きほぐし、何が問題であったのかを再考すると共に、何が現在にも繋がっているのかを読み解こうとしているのだろう。そして、それを現在への問いへと変換している。
    その姿勢に本当に感服する。

    正直に言えば、芝居自体としては、今まで観た劇団チョコレートケーキの作品の熱量と比べて、少し物足りない気もしたが、上記のことを踏まえると、そんなことはどうでもよくなる。

    また、メッセージ過多だなと思う部分もあり、純粋に作品としてみたらどうだろろうと考えてしまったが、演劇のように観客を想定して発せられる表現において、そもそも純粋な表現などということはあり得ない。作品は常にコンテクスト(文脈)の中で機能している。社会的なものを背負わない観客などいないのだから、それを無視して表現など成り立たない。
    そう考えたら、この少し過多なメッセージもむしろ好意的に感じられた。

    このような真摯な若い劇団がいることは本当に救いだと思う。

    ネタバレBOX

    この作品が語っている第一次大戦を起こした原因のひとつは、「愛国心」。
    「青年ボスニア」のメンバーも、「統一か死か(黒手組)」のメンバーも。
    皆が自分のためというよりも、自国のために正義を掲げている。
    自己犠牲的で、他人のため、社会のためと思っていることが、尚更、正義の感覚を当人たちに与える。

    この辺りも、集団的自衛権の問題や尖閣諸島や独島/竹島問題などが起るとすぐに愛国心が持ち上がる日本の状況への批評にもなっている。

    奇しくも、私が観た6月15日は、サッカー日本代表のワールドカップ第一試合があり、街中に「ニッポン」コールがこだましていた。
    ワールドカップを否定するつもりは微塵もないが、自国の名を叫び一つの集団にまとまることを快楽とする精神のあり方には、ナショナリズムに通ずる危うさがあるのは否定できないのではないか。実際、オリンピックをはじめとしてスポーツがそのよな利用のされ方をした例はある。
    少なくともそのような気運がこの国で盛り上がりはじめていることを感じていたので、「ニッポン」を叫ぶ無数の声を舞台上のBGMとして重ねながら作品を観た。

    また、ロシア帝国汎スラブ主義工作員のセルゲイが、共産主義革命を起こす契機として世界大戦を望んでたというのも原因のもうひとつの大きなもの。
    セルゲイは
    「戦争の火はヨーロッパにはびこる古い権威を燃やし尽くし、新しい世界を作るきっかけとなってくれるのです。」
    「農民と労働者の暮らしは、戦争が無くても苦しいのです。そこに戦争が起こる。貧しい暮らしは更に圧迫される。そうなるとどうなるか?」
    と言う。
    実際、ロシアはその後、セルゲイの望んだ通り革命が起きた。
    ただ、この時代は、まだ「革命」というものが希望としても語られ得たからそうなったのだろう。

    現在にこの問題を照らすと、赤木智弘が「「丸山眞男」をひっぱたきたい 31歳フリーター。希望は、戦争。」(「論座」2007年1月号)で提起した、戦争をすることで、社会が流動化し、構築された格差を崩すチャンスとなるという議論と重なるのではないか。赤木自身、本心で言っているのか、偽悪的に言っているのか、他の文章を読んだことがないので判らないが、セルゲイの思想から革命の希望を除くと赤木的な発想となると思う。

    最後に、複数の民族・人種が混在しているセルビアの問題を、
    中国や韓国と日本との関係(尖閣諸島や独島/竹島問題)と重ねて、寓意的に提起している点も素晴らしかった。メッセージ過多ではあったが。

    総じて、素晴らしい批評性のある作品だと思った。

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    2014/06/15 22:29

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