サラエヴォの黒い手【ご来場ありがとうございました!!】 公演情報 劇団チョコレートケーキ「サラエヴォの黒い手【ご来場ありがとうございました!!】」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    テロリストたち
    「世界大戦勃発の発端」として、その地名ばかりが記憶に残っていたサラエヴォ。
    主義・思想を超えて“不満”で繋がる若者たちのエネルギーが生々しく描かれ
    “大人の事情”に利用されていく過程がリアルで迫力があった。
    生き残った二人の回想というかたちで現在と過去を行き来する構成が秀逸。
    怒涛の事件当時と、老人の振り返りの対比が鮮やか。
    こういうテーマに普遍性と現在を重ねる制作側の視点に感動する。

    ネタバレBOX

    劇場に足を踏み入れると、舞台には既にひとりの老人がいる。
    上手側、作業台のような大きい木製のテーブルの上には資料らしきもの、
    それを手にとって確かめたり直したり、ゆっくりと落ち着いた動作。
    やがて白髪のその人が西尾さんと判った。

    サラエヴォ事件の実行犯は「青年ボスニア」のメンバー7人だった。
    オーストリア領ボスニアでセルビア民族主義を謳う彼らを結びつけたのは、
    貧困と結核、そして自国を変えるために何か行動を起こしたいというエネルギーだった。
    軍内部の秘密結社「黒手組」は、彼らの暴走するエネルギーを利用し
    オーストリア次期皇帝フランツ・フェルディナントを暗殺しようと企てる。
    しかしその「黒手組」をも利用しようとする、さらなる大きな力がうごめき始める。
    そして1914年6月28日、ついにサラエヴォ事件が起こる…。

    7人のメンバーのうち生き永らえた2人の老人が再会して
    人生の最後に“あの事件“を総括する、というストーリー。
    思い出を語る現在と、事件当時の再現とが交互に演じられる。
    この構成が非常に効果的で巧い。
    巻き込まれたような怒涛の出来事が、老人の時を経た冷静な分析によって
    時折自嘲気味に笑いを交えながら語られ、二つの時代の対比が鮮やかになる。

    年老いた二人、西尾友樹さんと岡本篤さんは、帽子ひとつで若かりし日に飛ぶ。
    それが滑らかで無理がなく、複雑な出ハケも気にならない。
    岡本さんは昔を語る時、時に話し方が若々しく傾くが
    西尾さんは一貫して年寄りの話すテンポ、おっとりした口調が変わらない。
    二人の狂言回しとしての切り替えの上手さが構成・演出にぴたりとはまっている。

    「黒手組」の幹部、アピス大佐を演じた佐瀬弘幸さん、
    こんなに軍服の似合う役者さんも珍しいのではないかと思う。
    極端な思想や強い主張を、組織という枷の中で通そうとする人物を演じる時
    軍服の内に秘めた人間の弱さや汚れた部分を出すのがとても巧い方だと思う。

    同じく「黒手組」のタンコシッチ少佐を演じた浅井伸治さん、
    アピス大佐を諌める場面の説得力、最後の潔い軍人ぶりが感動的。

    ちょっと舞台が見えにくく、声だけで筋を追っていた前半が残念。
    ラスト、「たとえ話」は無くても良かった気がする。
    語り続ける西尾さんの声が次第に音楽にかき消されていく終わり方は良かった。
    下手のセットが浮び上るところなど、照明の巧さ、センスが素晴らしかった。

    チョコレートケーキらしさ全開の“歴史の当事者とその裏側”は確かに独壇場だ。
    個人的な好みを言えば、例えば先日の「楽屋」のような
    全く別の方向から時代に光を当てた作品も観てみたい気がする。
    チョコレートケーキの描く“一方的に翻弄される人生”の
    哀しみと図太さもまた、ひどく魅力的にちがいないと思うから。

    0

    2014/06/12 23:59

    0

    0

このページのQRコードです。

拡大