グローブ・ジャングル 公演情報 虚構の劇団「グローブ・ジャングル」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    ネットという名のゴミ山を越えて行け
    「ネットは人類がどれだけ最低になれるかの実験の場だ」
    この台詞が強烈に印象に残るこの演劇。

     濡れ衣を着せられ、ネットで祭りの対照となり、
    人生をズタボロに引き裂かれた
    七海(小野川晶)は炎上の口火を切った人間に
    復讐する事を思い立ち、ネット上を血眼で探した結果
    沢村(オレノグラフィティ)という人物を突き止め、
    少ない手掛かりを頼りに、彼を追いロンドンに降り立つ。
    復讐が成就した暁には自殺すると決めていた。
     そこで彼女は、意識の有無に関わらず絶望し自殺願望の
    ある人にしか見えない幽霊・住田(小沢道成)、
    一見凄く明るいが実はネットでの
    暗い過去を持ち人生再挑戦をかけこの地に
    やってきた唯(根本宗子)、昔どこの公園でも
    あった遊具・グローブジャングルの営業をしていた
    長谷川(渡辺芳博)、住田の生前のブログを見て
    彼をソウルメイトだと思い込み日本から
    尋ねてきた中学生・千春(木村美月)と出会う。
    唯と長谷川には住田が見えるが、千春には見えない。
    長谷川の絶望はグローブジャングルが子供には
    危険だと訴える世間の声に押され、問答無用で
    次々に撤去されたからだ。

     沢村は、自らが主宰する劇団の団員たちから三行半を
    突きつけられ居場所が無くなり、ロンドンに
    逃げて来た。七海を祭りの生贄にしたのは、団員たち
    との関係の憂さ晴らしのためであった。
     演劇を捨てるつもりだった彼だが
    旧友の北野(三上陽永)のたっての願いで、芝居を
    演出する事になる。芝居を利用して出世しようという
    北野の野望も知らずに。沢村のもとに、ネットで
    正義を振り回す千葉(杉浦一輝)、沢村に
    恋心を告白したが彼に受け入れてもらえなかった
    麻美(森田ひかり)が合流。
     何とその芝居に七海たちも出る事になった。
    が、唯は日本での暗い過去が原因で世間体を
    気にする北野から出演を拒否されてしまう。
    沢村にも住田は見えた。
    (北野、千葉、麻美には見えない)
    稽古が進んでいく中で、七海と沢村は、お互いの
    因縁を知る事になる。
     
     果たして七海は鬼と化し、復讐を果たすのか?
    沢村は運命にどう立ち向かっていくのか?
     
     登場人物の間柄は、住田を合わせ鏡にした
    好対照を成している。
    被害者の七海と加害者の沢村、明白な自殺願望を持つ
    七海と無意識下の唯、絶望している七海と
    していない千春、恋心を抱く麻美と抱かない沢村、
    世間に評価されたい北野と世間から突き放された
    沢村と長谷川・唯、
    昔ネットで正義をかざしていた沢村と現在進行形の
    千葉、そして七海と麻美も決定的な
    場面で好対照を成す。最後は沢村・七海と長谷川。

     悪ふざけした写真を自慢げに投稿する者、
    そんな馬鹿者を見付け執拗に追及し個人情報や
    写真をさらし自らの正義に酔いしれる者、
    上から目線で些細な事にクレームをつける者、
    嘘をでっち上げ拡散する者、
    自分の意見を持たずただ世間に流される者・・。
    ネット上の最低と化した人間たちの言動が今では
    あまりにも身近すぎて、観客は誰しも切実さと
    生々しさを感じたに違いない。観客自身が
    己は最低人間か、または傍観者という加害者か、
    はたまた被害者か、考えざるを得ない程に。

     最低と化した人間の情報は、ネットを通じて
    グローブジャングルのように世界中をグルグル回り、
    どこまでもその人間を追いかける。
     それゆえに、最低人間になるか否かの七海の宿命に
    似た切羽詰った決断の場面に、観客は手に汗握る。

    冒頭の台詞に加え、拙者は
    「ネットは様々な絶望を見させてくれると同時に
    体験させてくれる場だ」と思っている。
     例えるとネットはスモーキーマウンテンのようなものだ。
    途上国にある悪臭や有害物質が漂うゴミの
    山・スモーキーマウンテン。
    そこで暮す子供の大半は短い一生をそこで終える。
    家族も周囲の人間も貧乏から抜け出せず絶望しここに
    留まらざるを得ないからだ。
    ネットにも至る所に絶望があり、酷い臭いが漂う。たまに
    幸運が転がっているが、見つけられるのは稀だ。
    その臭いをかぎ続けると人は死に至る。
    今まさにネットの死の臭いに七海や沢村らは飲み込まれ
    かけている。今はその心配がない千春の将来の姿は
    七海や沢村かもしれないと思わされ、胸がざわめく。

     生きていくには、そこから逃げるしかない。どんなに
    絶望がグルグルと地球を回って追いかけてきても。
    ここではないどこかへ。絶望の丘を越えて人を信じ、
    愛し、許しながら。過去ではない未来へ。今までの
    自分ではない新しい自分を探しに。
     スモーキーマウンテンを抜け出した数少ない子供の
    中には苦難の末、希望を掴み取った子もいると
    いう。その一歩を踏み出す姿に人々は心動かされる。
    七海や沢村たちも歩み出す事が出来るのか?
     登場人物たちが下した決断に、観客は今の時代を
    生きる勇気を分け与えてもらったと感じるはずだ。

    (終わり)

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    2014/04/13 02:57

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