虚像の礎 公演情報 TRASHMASTERS「虚像の礎」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    批評性の強い作品
    中津留章仁氏の魅力は、社会にある様々な問題を、一度観念的に拾い出して、それを演劇のダイナミズムに力技で組み直すというようなものだと思っている。

    今作の印象は、私が観た中津留作品の中で、最も観念的な作品だと思った。演劇のダイナミズムよりも、観念が先行しているように思った。
    その点は物足りなく思ったが、全否定という訳でもない。
    その分、作品の中にある複雑さや分裂は、今まで見た作品の中で最も大きかったように思う。その点はとてもよかった。

    作品テーマも、今日社会で最も問題になっている、拗れてしまった正義と暴力の問題。
    架空の都市での話だが、日本と近隣諸国との関係のようでもあり、イラクなど中東の話のようでもあり、、、
    そこに、なんとか解決策を見出そうという作者の意志が素晴らしいと思った。

    ただ、一点とても気になることがあったが、、、それはネタバレBOXで。

    ネタバレBOX

    世の中にある複雑な価値観とそれに基づく正義と暴力について語られている。それも、大きな社会問題から、小さな人間関係の中に潜むものまで。
    現代社会で最も問題になっていることだと思う。

    様々な立場の人間が、自分の正義を声高に主張し、他の意見を排除する。だが、それぞれに誠意あることを言っているという場合も多い。つまり、正義と悪で対決しているのではなく、正義への道筋やその判断基準が違うだけという場合も多いのだ。その相違をなんとか解決できないのだろうかと悩む主人公(劇作家)。これは、どこかで中津留氏自身の姿に重なって見えなくもない。

    この主人公が、解決不可能な様々な問題に対しての、唯一の希望として描かれる。

    中津留氏は、この主人公に自分を重ねてはいても、それは自己正当化や自分を誇りたいということではないのだと思う。
    表現(演劇)の可能性として、この主人公を描いているのだと思う。

    そう考えたとしても、それでも、どうしても、
    誰か一人が正義のように描かれる物語に私は抵抗がある。
    そのため、あのラストシーンはあまり良いとは思わなかった。

    私はラストシーンで主人公が撃たれればよいと思って観ていた。
    それは、主人公が気にくわなかった訳ではなく、むしろその考えには大きく共感するからこそ、そんなキレイゴトが通じる社会じゃないじゃないかと思っていたからだ。

    勿論、作者はそんなことはわかった上で、それでも希望を描いているのだろうが、、、

    私は希望を見ることよりも、絶望を感じることからしか、
    次の一歩を踏み出せないタイプの人間なのだと思う。

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    2014/03/12 00:42

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