役者を涙させる菅沢 晃
『東京ノーヴイ・レパートリーシアター』は、ドストエフスキー、ブレヒトといった偉人作品を、翻訳劇に囚われず提供してくれる、稀有の劇団である。
その上演時間3時間30分は 削ぎ落とす無駄がない。
一般的な演劇だと、ゲネプロ(公開練習)から千秋楽へ向かって「進化していく」順路だろう。
帝国劇場ミュージカルは通常、本公演前に レビューを設ける。このチケット料金はS席につき約2000円安価である。
一方、ヨーロッパ・オペラ劇場に多い、日替わり上演を行うのが「レパートリーシアター」。
『レパートリーシアターKAZE』等の劇団は名が知られているが、日本においては圧倒的に導入された例のないシステムだ。
今回『白痴』を観劇し痛感したことは、「役者に新鮮さ」が与えられるプラスであった。
セリフを聞けば、『東京ノーヴイ・レパートリーシアター』の『白痴』『白墨の輪』シリーズは、メインキャスト以外 稽古量は十分ではない 可能性を伺わせる。
しかし、菅沢 が 魔術師である事実は変わりない。
ムイシュキンが スイス療養中に出逢った娘の回想をすれば、隣にいた役者は号泣してしまう。
照明は菅原ピン。
涙する場面ではない。
ところが、回想シーン後も、鼻水が止まらなかったのが麻田(アレクサンドラ)であった。
「冷たい女」の役柄を否定。
彼は人の心に礼儀正しく侵入し、それを癒すパワーを発揮した。もはや宗教だ。
舞台進行に支障が生じるギリギリの線である。
こうした事態は、「役者に新鮮さ」が与えられるレパートリーシアターでなければ 再現しえない。