人魚の夜 公演情報 青☆組「人魚の夜」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    五感をくすぐられる作品でした。
    こんな作品を、若い女性が書いていることに衝撃を受けました。
    言葉、声になった台詞、動き、表情、すべてがそこに在るべくして存在しています。
    とにかく素晴らしく、一目惚れです。

    まだ2014年が始まったばかりですが、
    今年これ以上の作品に出会えないのではないか…そんな気がしています。

    ネタバレBOX

    会場に入ると水中の音(水中で空気の泡が上る音?)がします。
    人魚の話らしい演出。
    女性演出家の心憎い細やかな演出が、開演前から感じられます。
    吊された、いくつもの円の飾りも、その水泡であり、雨の滴でもあるようです。
    舞台に並べられた椅子に、舞台が教室であることがわかり、
    職業柄、期待がさらに膨らみます。

    五感をくすぐられる作品でした。

    開演前の音、終演時の雨音、砂を踏む音…、
    さらに「雨が降り出した」とか「止んだ」とかの台詞が
    音を想像させてくれます。
    吊された円、朝食の湯気、そして暗転という闇から見えるものがあります。
    教室の椅子が担がれただけで葬列に見せる演出も見事でした。
    暗転の中で客席後方から登場する演者の空気の流れを肌で感じます。
    「海の匂いがする。」という台詞が嗅覚を目覚めさせ、記憶を辿りはじめます。
    また亡くなった娘(妻)が通る時に、「海の匂いがする」という台詞が、
    彼女の存在や、そこに風が通り抜けたこと、海の香りがしたことが
    明確に感じられるのです。
    いや、それを感じさせるために彼女がそこを通るのですね。
    見事な演出です。


    作品には、3つの時間が存在しています。
    主人公が少年の時。
    主人公が教師をしていた時。
    隠居し、娘の死を弔う現在。

    場所は田舎の海辺の町。
    そこには伝承があって、
    「男の子しか生まれなくなったこの町は、海にいる女を嫁にもらった。
    女は水のない生活ができず、雨の日に上がってくる。」
    「雨の降らない日が続くと、夫に会えない苦しさに泣き叫び、嵐を呼ぶ。
    嵐で暴れる海は、愛しい人を海の底へ連れて行く。」
    各地に残る伝承というものは、切ないものが多い気がします。
    その意味でも、しっくりとくる伝承です。
    そして、多くの伝承と共通して、そこに愛が感じられるのです。

    「どうしたら永遠を手に入れられると思う?」
    これが大きなテーマになっているように思えます。
    死んだ娘と夫の、初めての朝食のシーンが印象的です。
    この朝のことをいつまで覚えていられるのだろうか、
    ずっと覚えていたいと娘は考えるのです。
    そこにも、景色、匂い、味、茶碗の重さ…が語られ、美しいのです。

    弔いを済ませ、町を出る決心をした夫が妻の幻影に問います。
    2年前のあの日、嵐の中、なぜ石けんを買いに出かけたのか?
    (それは本当の理由なのか?)
    「わたしがちゃんと覚えているから。あなたの分も覚えているから。
    だから、忘れて大丈夫。」
    死別した夫婦や恋人の、いちばん苦しいところ…、琴線に触れます。

    主人公の人格形成に多大な影響を与えたのは、大好きな美しい先生でした。
    先生は夫を海で亡くし、人魚だと噂される神秘的な女神。
    町を出る先生が、慕ってくれる主人公との別れ際に、抱きしめながら言うのです。
    「ひとりぼっちで歌うとき、わたしの声を思い出すのです。
    何十年、何百年経っても、いつでも一緒です。」
    あぁ、自分はこんなこと言えるだろうか…と感心したり、反省したり。

    校歌。
    愛校心の象徴と言えるでしょう。
    この町では、誰もが歌えて、学校も町も愛していることが見えるのです。
    最後にひとりになった主人公が言うのです。
    「大きな声で歌うんだ。………雨の夜でも。」

    永遠の愛。
    それはひとつの愛がずっとそのままなのではなく、
    愛は巡るということなのですね。
    息子がナツオ、娘がフユコとハルエ。
    季節が巡るのですね。
    主人公が先生と別れる時に、勇気を出して告白します。
    「どうすれば先生と仲良くなれますか。」
    父が女を連れ込み、母を泣かせ、吠えるのです。
    「女は買うか、釣るか、拾うものだ。」
    「女と仲良くするには乳を揉め。」
    そうして少年は、性に対して潔癖になったのです。
    そんな彼が意を決して、そのことを告白します。
    キュンキュンします。

    この作品の登場人物は、みな大事な人を失っていたり、傷ついていたりします。
    嵐は大切な人を奪っていきます。
    実際に命を奪うだけでなく、心も、信頼も。
    息子も教師を目指し、嵐の中で家へ送り届けた生徒と…。
    それは明確にされませんでしたが…手を繋ぐことで…。
    潔癖で厳格な父と、おそらく何かを守ろうとしていた息子は衝突して。



    ダメですね。
    やはり上手くまとめられません。
    ひとつに収められないたくさんの刺激が、心のひだをくすぐっているのです。
    それほどたくさんの刺激が詰まっているにもかかわらず、
    無駄を感じさせる部分のない、素晴らしい作品です。

    そして俳優も素晴らしい。
    憧れの先生は、まさにステレオタイプの先生であり、それが見事で美しく完璧です。
    その立ち姿、話し方、慈愛のこもった視線、
    そして悪戯も、性への関心もすべて包み込む懐の大きさ。
    さらりといじめに対する指導までやってのけます。
    その先生像を見事に演じた渋谷はるかさんにぞっこんです。

    フユコの持つ神秘と、清らかさと、気高さと同時に、
    微かに見え隠れする、奥底に潜む情欲のようなものがすべて昇華した演技を見せた
    小瀧万梨子さんは、天才です。
    いや、決して天賦の才能だけでできちゃってるということではありません。
    工夫、努力されていると思いますが、
    それがもうその人物である以外に、何も考えられないほどその人なんです。
    そして、作品ごと、役柄ごとに、全く違う人物でありながら、
    その人としか見えなくなるのです。
    彼女の出演作は、すべて観ようと決めています。

    最後に、人魚について。
    タイトルから連想するほども、フライヤーの文章から連想するほども、
    人魚が登場したりしません。
    しかし、唯一登場した人魚を意味する4人の女の視線が
    まぁ、エロティックです。
    演出の吉田小夏さんが、どんな指示をしたのかとっても興味があります。
    指先の動き以上に、やはりあの視線です。
    特に大西玲子さん(二女ハルエ)の上目遣いがヤバイです。
    昇天します。こんな作品を、若い女性が書いていることに衝撃を受けました。
    言葉、声になった台詞、動き、表情、すべてがそこに在るべくして存在しています。
    とにかく素晴らしく、一目惚れです。

    まだ2014年が始まったばかりですが、
    今年これ以上の作品に出会えないのではないか…そんな気がしています。

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    2014/01/14 02:40

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