人魚の夜 公演情報 青☆組「人魚の夜」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    名言
    美しく儚い設定で語られる、これは受容と再生の物語に見える。
    受け入れ難いことを受け入れるとは、わかっているのにこんなにも難しい。
    陸に上がる魚たちは、その思いの強さから荒っぽい方法を取るが
    人間は曖昧な表情で途方にくれている。
    シュールな展開もあるが安定した構成、
    藤川修二さんの熱演と荒井志郎さんの繊細なたたずまいが魅せる。

    ネタバレBOX

    5度の大きい戦争のあと、男しか生まれなくなって
    男たちは魚を嫁にした時期があった…という昔話が語られる。
    魚の嫁たちは雨が降ると陸に上がって男のもとに通った。
    逢いたい気持ちがつのると、魚たちは雨が降るように祈り、それは時に強い台風となる。
    だからこの町は雨の日が多いのだ、と言い伝えられる地方が舞台。

    2年前台風の日に行方不明になった冬子(小瀧万梨子)の靴が発見され
    夫の孝博(荒井志郎)の手により、役所で正式に死亡届の手続きがされようとしている。
    冬子の父で元教師の正彦は、その孝博と二人で暮らしていた。
    少年時代の正彦が慕った合唱部顧問の先生(渋谷はるか)や
    冬子の妹春江(大西玲子)、ある事件から家に出入りしなくなった夏雄(井上裕朗)ら
    正彦をめぐる過去と現在が行きつ戻りつしながら葬儀の日を迎え、別れの日が訪れる…。

    ある日突然理由もわからないまま誰かを喪うという喪失感を共有する人々。
    夫も、父も、兄妹も、みなそれぞれが互いを思いやって暮らしている。

    無理強いをせず、誰かの気持ちが動くのを待つタイプの進展がむしろ新鮮で
    けじめをつけてこの家を出ていこうとする孝博の静かな動きや
    その孝博を慕って世話を焼く春江のかいがいしさ、
    言葉にならない心情が静かな立ち居振る舞いと何気ない日常の会話に溢れている。
    こんなにも豊かな表現を、日頃私たちはきちんと見ているだろうかと思う。
    言語化されたことのみを取り沙汰し、その他の表現をないがしろにしていないだろうか。

    少年期と老年期(この間が全くない)を行き来する正彦役の藤川修二さんが熱演。
    この父はこの後も淡々と生きて行くのだろうが、その寂しさが胸に迫る。
    取り残された夫を演じた新井志郎さんの繊細な台詞とたたずまいが魅力的。
    理由探しと思い出の反芻に明け暮れる夫の日々が思われて切ない。
    「お父さんはこれからどうするんですか?」と尋ねながら涙がにじんでいたシーン、
    再び取り残される父親を思いやる切実な問いかけにもらい泣きしてしまった。

    溌剌とした合唱部の顧問として指導する反面
    「あの先生は魚だ」と噂される小波先生を演じた渋谷はるかさん、
    キレの良い台詞と凛とした姿勢が素晴らしく、不意に見せる妖艶な表情との
    落差がインパクト大。

    夏雄が、死んだ冬子と交わした手紙が良かった。
    率直に結婚の幸せをつづる手紙に対して、葬儀の時にやっと返事をしたためる兄。
    平易な言葉で語られていて、演じる井上裕朗さんの朗読が泣かせる。
    登場人物の言葉の中で、この2通の手紙が最も素直だ。

    少々パターン化してきた感もあるが、青☆組のこの安定感と上品さは貴重だと思う。
    お膳に並んだ湯気の上がる味噌汁や、何度となく淹れられるお茶などが
    シュールな設定の中で日常を際立たせる。
    ちょっときれいにまとまり過ぎな人間関係も、
    “わたおに”みたいな丸出し会話に辟易する私としては心地よく聴ける。

    それにしてもこの上品な作品の中で、ひときわ光る台詞を書く吉田小夏さん、
    「女は魚と同じ、釣ったり買ったり拾ったりするものだ」というこの言葉は
    女を男に入れ替えても、けっこう名言だと思う。



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    2014/01/13 11:35

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