て 公演情報 ハイバイ「」の観きた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    家族は「て」の指のよう
    バラパラだったりしても、下ではつながっているから。
    ……そういう意味合いのタイトルなんだろうね。

    ハイバイの『て』は、家族の話。
    とても深く考えさせられ、笑ったり、あるいは泣いたり、痛くなったりする。

    ネタバレBOX

    家族の話。
    こういう設定は、「家族」を意識するようになった、ある程度以上の年齢にとって、「自分のこことして」見て、考えられるというメリットがある。
    どんな家族構成や環境であったとしても「家族」の話は強いということだ。

    しかし、逆に誰でもが想像できる「家族」の話なだけに、多くの観客を納得させるのは難しいともいえる。観客の数だけ家族のカタチがあり、尺度があるからだ。

    ハイバイの作品は、岩井秀人さんの個人的な体験が源である。
    この作品も自身の体験がもとになったらしい。

    岩井さんの体験は、観客の最大公約数であるわけもないのに、観客は納得し、かつ共感が生まれたりする。

    それは語り口の面白さもあるが、作品がとらえているおおもとの部分が、1人ひとり別の人格をもった観客たちの、それぞれの琴線に触れることができているからであろう。

    「家」を象徴するような4本の柱が天井から吊されている。
    ところどころに焦げがあったりする。
    ただ、それだけのセットなのに、そこに物語を見出すことだって可能だ。
    そこで人が演じることで、観客の脳裏にはさまざまな体験や経験が蘇ったりするのだ。

    一口に「家族」といってもさまざまなカタチかあるだろうが、その「おおもと」「根っこ」の部分においては、共通するポイントがきちんとあるだろう。
    「これ」と言葉にうまくできない、それが舞台の上にある。
    「言葉」ではないので観客は自分の家族のカタチを投影できる。

    そうしたものをきちんと見せるうまさがこの作品にはある。
    それを意識して戯曲を書いているのかどうかはわからないが、確実にその部分はとらえていて、それをあからさまではない方法、演劇として、「面白く」見せていくことができているのだ。

    「面白く見せている」というところは非常に大きなポイントだ。
    戯曲も演出も、もちろん役者さんたちもうまいのだ。

    男性の岩井さんが母親を演じているということで、観客の心の敷居が下がってくるということもあろう。
    また、「笑い」があり、それで気持ちがほぐれたり、救われたりするという面もあると思う。

    それらを絶妙なバランスで見せてくれる。

    ただし、すんなりと飲み込みやすい作品ではなく、飲み込みにくさが、笑えたり、泣かせたり、痛かったりするのだ。

    この作品では、父顔のDVが中心にあり、それを取り巻く家族の関係が描かれる。

    視点を変え、同じシーンを再度見せるという手法がうまく使われている。
    答え合わせであったり、別の「視点」であったり。

    この「別の視点」というのは、ひょっとしたら人間関係をうまく築くための、良いツールなのかもしれない。
    「人の身になって考えよう」なんて言うけれど、なかなかできない。
    だから「別の(他人の)視点」というのは大切だ。

    もちろんそれを啓蒙するための舞台ではないのだが、長い間「引きこもっていた体験」のある岩井さんが、外に出て、演劇に出会って気がついたことなのかもしれない。
    演劇は、「他人の気持ち」を想像できなければ、成り立たないので。
    岩井さんは、そうして引きこもりから脱出したのではないだろうか。

    「家族間のディスコミュニケーション」は、その度合いもさまざまだけど、多く存在しているのかもしれない。観客の多くは、胸に思いあたるところがあるから共感できるのかも。そのような状態は、「外にいる限定的な引きこもり状態」と言えるのではないだろうか(ちょっと強引か)。だから、そこから抜け出すには「別の(他人の)視点」が必要なのだろう。

    痛かったりして、泣けたりして、自分の家族のことを思う観客も多かったのではないだろうか。
    感じることがいろいろあって、考えることもいろいろあったりして。

    「視点」を変えることで、とてもイヤな感じの長男への見方が変わった(長男を演じた平原テツさんは、イヤな役を演じたら天下一品・笑)。
    つまり、シンプルなことだけど「話さなければわからない」ということが深く突き刺さった観客もいたのではないだろうか。

    「もっともっと話をしておけばよかったなぁ」と、あとから思うのが家族なのかもしれないのだが。

    劇中では「家族ではない人」が出てくる。
    とても親しいけれど、家族ではない。
    血がつながっていれば「家族」になるわけでもないし、血がつながっていなくても「家族」はあり得る。そんなことまでも感じさせてくれた。

    おばあちゃん(永井若葉さん)の優しい佇まいは染みた。

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    2014/01/06 07:00

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