満足度★★★
地面の下の死者と床の上の生者
近未来の日本を舞台にした物語で、戦争や命、格差社会、日本語といった様々なトピックについて考えさせられる作品で、時間的にも空間的にも物理的にはスカスカでありながら、密度が感じられました。
赤ちゃんをお腹に宿した女、その夫、夫の弟、兄弟の母親(幽霊)、引きこもりの女の5人がそれぞれの立場からの主張を淡々と語って進行する中に、現代の日本人が抱える悩みや不安が浮かび上がって来て、次第に引き込まれて行きました。
引きこもりの女が早口で喋り続け、英語と中国語の字幕が追い付かない状態になると、その字幕について言及し出すユーモラスなメタ的展開があったものの、基本的には役の入れ替わりや時系列の行き来が無いストレートな構成でした。
しかし、音楽や字幕が役者と同等の存在に扱われていて、台詞と台詞の間に字幕や音楽だけが流れる時間が多くあり、独特のリズム感が生まれていました。仕草にしては大きく、ダンスにしては小さい漠然とした体の動きが常に続いていて、不思議な雰囲気を作り出していました。
舞台上に一段高くなった横長の床が設けられ、上手には光る円形のオブジェと垂直に立った大きな鏡、中央には字幕が映し出される十字型のオブジェがあり、シンプルで格好良かったです。シャープで幾何学的な照明デザインも美しくて印象的でした。
サンガツによる、ギターとドラムによるミニマルな音楽も抑制した雰囲気の中に時折ドラマティックな広がりが感じられて印象的でした。