紛争映像より突き刺さった「声なき声」の声
私たちは世界の出来事を知った際、パソコン•スマホの液晶画面、テレビの液晶画面、新聞紙面、または雑誌を前にしていることが 多い。2011年「アラブの春」に端を発したシリア内戦も、以上の〈面〉が中心だったことだろう。
ワンツーワークスは日本唯一の「ドキュメンタリーシアター」を紡ぐ劇団であり、不妊治療者や医療関係者を取材した『産まれた理由』(2012年11月)は 私が「ドキュメンタリーシアター」に出逢った最初の公演でもある。前回公演のケースだと、声なき声を紡ぐ対象は「日本人」だから、音声等も参考に「コピー」すればよかった話かもしれない。(もちろん、そんな単純ではない)
しかし、今回は2年前、アサド政権危うしという情勢下の、ホテルチェーン経営者や自由シリア軍兵士などの声なき声である。宗派•階層•地域等のバックボーンが 異なる国民一人ひとりを、外国劇風ではなく、「個人」として映す。これは、言語の違いすら越えた、(初演は英語)「ドキュメンタリーシアター」の未来を占う重要な機会である。
本年8月に化学兵器使用問題が浮上し、米国主導の軍事介入さえ語られ、シリア情勢は列島各地の〈面〉を占拠する。ところが、公演時期の2ヶ月前に その可能性も弱まったためか、〈面〉を発信するマスメディアが取材に来なかったらしい。ワンツーワークス主宰の古城十忍氏が嘆いておられる。
「(中略)〜いろんなマスコミにご案内を出したのですが、食いついてくれたのは、「JapanTimes」と「NHK」のみ。しかもNHKも地上波ではなく、BSの国際ニュース番組」(ワンツーメルマガ 臨時増刊号 11月12日)
シリア情勢が落ち着いた結果なら構わないが、シリア難民は現在約200万人、子ども難民も100万人を突破している。とても無関心でいられる状況ではない。
『2013年9月30日、アントニオ・グテーレス国連難民高等弁務官は、内戦による
莫大な数のシリア難民がシリア周辺国の社会・経済の脅威になっており、
周辺国の負担を共有するため、国際社会が対策を取るよう要請しました。
「レバノン、ヨルダン、トルコ、イラクは、絶え間なく避難してくる
シリア難民を受け入れ、命を救い、保護してきました。
彼らは、隣国の人々を寛大に受け入れてきましたが、
いずれの国も限界に達しようとしています』(国連UNHCR協会 10月23日)
マスメディアは〈面〉を媒体にし、世界中で起こった出来事を伝える役割を担う。一方、〈面〉には、人の顔だとか、その表情を指す意味もある。だとすれば、私たちが日常操る〈面〉は、果たして人間の肌の滑らかさ、温もり、小さな産毛を感じ取ることができるだろうか。むしろ〈能面〉だ。裏を返せば、つまり この〈人間の顔〉こそが「ドキュメンタリーシアター」の強みなのである。