ビールのおじさん 公演情報 cineman「ビールのおじさん」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    非演劇的演劇
     事件らしい事件は殆ど何も起こらない。或いは、曖昧に処理される。それだけに役者の力量、筋の運び方、目立たない演出が重要になる。伝統的にカソリックのフランスでは、ヌーボーロマンに照応するようにアンチテアトルが起こったが、日本の伝統には、そもそも、絶対基準というものは存在しない。物事は、浮かび流れ去る泡の如きものであり現象であるに過ぎない。能で日本人の心の働き、魂の働きの極限領域として狂が描かれるのは、絶対が無いからである。その為、或る表現の強度を高め、保つ為にはその在り様の極北を目指すしかないのだ。
     今作でその強度を保障しているのは、土地、土地柄である。だから、方言は必然になるのだ。このように劇的なるものを避ける手法を自分は、非演劇と名付けておこう。未だ、この手の作品は少ないかも知れぬが、一つのムーブメントになる可能性は秘めているかも知れぬ。
     とても分かり易い例を今作の中から1例だけ引いておく。タイトルの「ビールのおじさん」だが、通常の主役ではない。寧ろ、老子の“上善は水の若し”という思想に近い。

    ネタバレBOX

     鹿児島の辺鄙なエリアで米作を営む中農の長男が亡くなった。連絡を受けた兄弟、縁者が集まる。TPP締結を目前にし、ただでさえ少ない働き手を失った三男の智和は、以前、亡くなった長男が動かしていたコンバインに巻き込まれて、足を怪我して以来びっこである。現在は、大学を止めると言い出した長男の娘、姪の尚と、都会から住み込みの農業見習いで来ている慶一郎が手伝っているが、将来の展望は明るくない。
    皆に声を掛けた嫁、倫代は6年前には籍を抜いていた。ただ、尚が大学を出る迄は、一緒に暮らすと約束していたに過ぎない。そんなこともあって、彼女は、家を売ろうと考えても居た。
     そこへ長い間実家へ戻らず長距離トラックの運転手をしていた次男の智良が帰って来たのだが、親子ほど年の離れた女が一緒である。麻子と言うが、彼女は余命半年と言われた智良の体を気遣って、酒、煙草を禁じている。それでも、智良は隠れて煙草やビールを遣ることがある。智良がこんな生活をしているのは、何をやっても兄に敵わない自分の居場所が無かった為、故郷に居続けることに耐えられなかったからである。
    麻子は、以前、完璧と言える彼氏と付き合っていたが、彼に合わせる為に自分も完璧になろうと背伸びをし、疲れ果てていた。そんな時、智良の肩肘はらぬ生き方に出会い、付き合うようになった。
     今は天文館のスナックでママをやっているめぐみは、倫代との結婚前に、長男の息子を産んでいる。名を正と言うが知恵遅れである。正は、初めて会った尚を気に入り、追いかけ回すが、結果は定かではない。ところで、尚が大学に行かなくなったのは、子供を堕ろした諸々の事情の結果である。
     現在は渋谷のブティックで店長をしている妹の智香。彼女は、智和の嫁、美希の同級生で子供の頃はデブでブス、友達になってくれたのは美希だけといういじられキャラだった為、現在ではダイエットに随分気を使っている。
     その美希の高校時代の彼が、転勤で鹿児島に戻って来た。以来、彼女の心に恋が再燃、智和との間が、怪しくなる。唯、この件を契機に夫婦は、互いに腹蔵の無い話をすることになり、結果、雨降って地固まる、ということにはなった。
     

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    2013/11/09 13:01

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