うさぎのマスコットが「裏側」を象徴していた
日本の集団心理を直接的表現で「えぐる」様は必見だ。
スーパーマーケットの事務室は、店員同士のみならず、男と女だとかにも向き合う空間である。オムニバス形式を取っていないようだが、一種の「短編集」であり、一つの物語としての完結性は低い。
それゆえ、「物足りなさ」を感じたことも事実だ。
集団心理を紐解けば、属性を設けた上での、そのグループ内における排除行為=やりたい放題に尽きる…
あるアメリカ政府高官は「日本の窓口 は 一体、どこなのか?」と分散型の権力構造を嘆いた。
戦前の権力構造も、内閣(首相)が あったり、議会(衆議院 貴族院)が あったり、枢密院(枢密院議長)が あったり、陸軍省(陸軍相)、海軍省(海軍相)が あったり …権力構造が分散型だった。これは合議制とは違う。
近代民主主義の基本である権力のチェックアンドバランスでもない。言うならば自民党内の派閥のような権力構造だ。
結局、陸軍が大臣を推薦しなければ内閣を組閣できないシステムが定着し、そのことが陸軍による政府支配を可能にしたわけだが、一方8月15日ポツダム宣言受諾を決めた御前会議では無条件降伏へ反対の声を上げていた。
霧のような権力構造だろう。
日本企業の特徴として挙げられるのは、「系列」である。業種をまたぐ低相互資本関係の企業グループを指す。
この日本企業の特徴を分析した論文「系列系企業は日本的経営を続けているか
-近年における独立系企業と系列系企業の比較- 早稲田大学商学部 広田真一ゼミ
大野道子・寺井政樹・藤重大武」から一部、紹介したい。
「中略〜導き出される結論としては、企業集団の形成は「安定性の確保」 のためにあるということである。企業をつぶさないために、業績水準を下げるという保険 金を支払って、事業リスクをカバーしているのである。
こうした企業集団に属する企業の行動は、銀行がいざというときに系列内企業を救済し たり、また、従業員を重視する経営に見られるように、安定性を重視し構成員を重視する 日本型の経営スタイルに基づいたものなのである」〔II.『企業集団の経済的意味と銀行の役割』 (1983 年中谷巌)の要旨〕より抜粋
一つの大黒柱(本社)が多数の(支社•分社)を支える中央集権ではない。韓国のSAMSUNG財閥にはみられない特徴である。
そして、重要なポイントは、こうした「持ちつ持たれつ」の企業風土が政治とも、すなわち戦前の霧のような権力構造とも近しい点だ。
日本は1990年代以降、「中央集権」を否定し、地方行政へ分権化する方向を邁進した。しかし、私は、「地域主権」「地域分権」といったフレーズが絶対的正義だとは考えない。2013年1月公表の財務省主計局の試算によると、平成25年度地方財政収支見通しでは地方公務員の人件費総額は19.7兆円に のぼる。
消費税8%級の予算が地方公務員へ充てられている事実…。
彼らの多くは業界団体と蜜月なだけではなく、全日本自治団体労働組合(自治労)等の労組をとおし野党の政策にも決定力をもつ。
「地域分権」を拡げると、自治労などの地方公務員の権限も相対的に拡大してしまう。これが疑問を抱く一つの理由だ。
当然、国家公務員こそ日本低迷の当事者だが、「共済制度」などの一部特権的制度の擁護をかかげる地方公務員もメディアは叩く必要があるはず。しかし、メディアは霞ヶ関の官僚バッシングを辞めない姿勢は貫き、「教職員」や予算の支えがなければ成立しない「農家」「漁業者」「社会福祉士」「介護士」「医師」等は ここ10年間擁護し続けた。
少子高齢化が進む中、消費税増税は東京新聞(中日新聞)以外の大手5紙(讀賣、朝日、日経、毎日、産経)が賛同。少なくとも、賛同した大手5紙は平均年齢66.1歳の農業従事者=農政分野の縮小、社会保障関連費の大幅圧縮を同時に訴えるべきだ。反対の東京新聞(中日新聞)も「消費税増税なき少子高齢化社会」の財政政策を語らなくてはならない。
思えば、毎年の「社会保障費2000億円抑制」さえ、族議員や業界団体、メディアの総攻撃にあい、一時断念してしまった経緯がある。
「消費税増税」より「歳出削減」の方が選挙に禁句だ。だが、1000兆円の負債を抱えた日本で、消費税を上げれば財政健全化するか。少子高齢化に見合った予算措置を進めないと、それこそ増税論者のいう「ギリシャ化」ではないか。
何が「税と社会保障の一体改革」か。
低所得層(資産評価額を加味)を除き、高齢者の窓口負担は さらに引き上げるべきだし、介護保険料ー介護サービス(40代以降ターゲット)への国税投入は最小限でなければならない。
低所得層以外の高齢者については、「資産の現金化」「貯蓄の放出」(景気対策)を促す税制度を側面から形作るのだ。
選挙を前にすると、誰もいえない。「世代間公平」を進めるのが「税と社会保障の一体改革」だとしたら、これを言わない政治家は消費税増税のレトリックとして利用しているに過ぎないだろう。
10%程度=11兆円程度の段階的社会保障関連費圧縮政策の断行しか、「消費税増税なき少子高齢化社会」は到来しえない。
これも「地域主権」「地域分権」が絶対的正義とは思わない話と同じだ。「消費税増税」で財政健全化は果たせないし、「社会保障」を聖域化する流れは間違っている。
この国の あるべき姿は、責任を負う個人の存在である。本作のスーパーマーケットがそうだが、この国の社会は中央のハブ機関こそ確認できても、一国一城で全て現場に任せられている。「地域分権」を拡げれば汚職が蔓延してしまう。際限のない「地域分権」が首長を地域の支配者にし、業界団体を巻き込む汚職を生んだ例は諸外国に多い。
本作の集団心理で巧みであったのは、ここ である。
高校OB先輩がものを言う閉ざされた地域、一国一城の やりたい放題…。店長であっても、店員の風紀すら変えられない(夜勤部)、逆に反抗される霧のような権力構造…。
おそらく本社という名の「中央」が乗り出せば解決するのだろう。
しかし、この国は棲み分け というか、「ここからは あなたの城だから、私は構いません」に終始する。
それを巧みに、肌寒さのなかで描いたことを絶賛したい。