満足度★★★★★
こんな形で舞台化されるとは!!
魯迅による原作『藤野先生』を読んだ上で鑑賞したが、まさかこういう形で舞台化されるとは!
客席と段差のない地続きの演技スペースには長机と椅子が数組、そして天井から吊られた幾本かの竹があるばかりで、主舞台である学校をはじめ具体的な場所を思わせる大道具は一切なく、役者は魯迅役の人を除いてみな巫女をモチーフにした衣装で登場。
白いYシャツに女優は真っ赤なスカート、男優は真っ赤なズボンをまとって演技をするのだが、この演技がクセモノで、動きがマイムさながらにコミカルだったり機械的だったり、マイムが高じて踊り出したり、詩のようなものを群唱したり、リアリズムとはほど遠いもの。
ようは今流行りの抽象舞台で、抽象舞台なら男女の性差も無視してOK!とばかりに、作・演出に加え女優も兼ねる堀川さんが男性である藤野先生を演じちゃうのもご愛嬌!
しかも、当パンには原作の要とも言うべき「幻灯事件にスポットを当て」たとあるのに、幻灯事件に割かれる時間はごく短く、原発事故を起こした我が国を皮肉っているのが明らかな挿話や、魯迅の級友のおきゃんな妹が秘かに思いを寄せている魯迅の部屋に可愛いイタズラをして帰るコミカルでほほえましいエピソードなど、原作にない話がてんこ盛り!
事程左様に、原作軽視とそしられても仕方がない仕上がりなのだが、巫女の装いをした女優陣はやけになまめかしいわ、ダンサブルなBGMはカッコいいわ、どんどん加速する音楽に合わせて役者たちが発狂したようにしゃべりまくり踊りまくる終盤の群唱&群舞は狂いゆく物語とリンクして観る者をハッとさせるわ、パフォーミングアートとしての完成度はバリ高! 『藤野先生』の舞台化作品という以前に、一つの演劇ショーとしてとても楽しめる。
批判を恐れず大幅に原作を改変して刺激的な見世物へと昇華させたチャレンジングなその精神を評価して、星は5つ。
上に「原作軽視とそしられても仕方がない仕上がり」と書いたけれど、革新的で惹きつける演出をしないことには『藤野先生』などという古典は見向きもされない可能性もあることを考えると、この演出でよかったような気もする。
バルブとしては、本作の観劇をきっかけに世田谷シルクという集団への関心が急上昇! おそらくは次回作も観ることになるだろう。