支線ガード下・始発 公演情報 劇団芝居屋「支線ガード下・始発」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    早めに行くべし サプライズあり
     若手の伸長著しい、芝居屋の新作。然し、良い劇団というのは、本当に若手をキチンと育てる。早目に行くべし。開場10分後辺りから、サプライズがある。無論、本編は、キチンとした作りの世話物だ。(追記2013.10.26)

    ネタバレBOX

     ガード下には人生がある。舞台設定はガード下に店を出す人々の共有スペース。丁度、ヨーロッパのアパートの中庭のように、広場脇に住居がある。今は、看板だけでヤクザとしてのシノギはない親分、村井が、前科者の行き場所が無いのを不憫に思い、自分のつてで飲食店などで働けるように手配した縁で、集まる者は皆家族同然の心安さで暮らしている。実際、一度、犯罪を犯した者は、その事情を斟酌されることも無く、只、犯罪を犯したことがあるという理由だけで、社会からはじき出されてしまうのが現実だろう。そのような行き場を失くした人々の避難所でもあるのだ。開演前に「アヴェマリア」が生の声で聞けるが、当然、この作品のテーマと通底している。
     さて、この広場で、今夜、村井の食堂のおかみ、良子への100度目の告白が行われる。集まるのは世話役、吉崎、親分の若衆(高倉、篠原、天津)かつて食堂で働いていて、今は結婚して長距離トラックのドライバーをしている竜子 現役の食堂従業員、保護司等々。100度目告白とは、言う迄もなく、小野小町の故事を下敷きにしている。言い寄る男(深草少将)に百夜通ったら、その時は云々というあれである。結局、この恋は最後の晩、少将が凍死して実らず、その後、小町は、生涯特定の男とは付き合わなかったと言われる。この辺り、三島 由紀夫の「卒塔婆 小町」、太田 省吾の「小町風伝」等にも援用されているので、演劇ファンならずとも、ピンとこよう。理屈はさておき、満願成就か否か、賽に細工はできても、女心に細工はできない。まして、おかみと親分は、兄弟同様に育ち、関係が近過ぎて、親分を異性とは感じていないのが正直な所と下馬評は言う。こと、惚れた女となるとからっきし意気地なしになってしまう、恥ずかしがり屋の親分、緊張に言葉もしどろもどろである。だが、口説き文句はとても素敵だ。
     ところで、こんなハレの日、よりによって隣町で強盗を働いた犯人が、この広場に隠れた。警察の張った手配網から逃れようと隅にあった段ボールに身を隠してそのまま、眠ってしまったのだ。それとも知らぬ一行、着替えを済ませて、座席も整え、百度目告白のリハーサルも終えて、いざ本番である。皆が、おかみに声を掛ける。親分が花束と共に愛の告白をする。下馬評通り、おかみは、断るつもりで居た。然し、答えを迫られた時に、見た皆の顔から、自分が、この若者達の母親になってやらなければ、と考え、申し込みを受けた。大喜びがひとまず収まると、片付けもしなければならない。それで、段ボールの捨てて在る場所へ行ってみると、何だか音がする。酔っ払いが段ボールを被って寝ていると判断した皆が、上に被せた段ボールを取り除くと、中から人が飛び出してきた。だが、それは強盗犯でピストルを持ち、高倉の彼女、美沙を人質に抵抗する。
     彼は、親の敷いたレールの上を懸命に走った。一流大学を出て、一流企業に就職した。上司の言うことは何でも聞いた、結果、失敗プロジェクトの責任を負わされ馘首された。だが、親にとっては自慢の息子、会社に行っている振りをし続けた。だが、給料日に振り込みがなければ、会社に行っていないことが、ばれてしまう。それで、郵便局強盗に走ったのだ。彼には人間関係を築くことができなかった。会社でも変人扱いされていた。
     これらの告白に高倉は、居場所の無かった自分の荒れていた時期を重ね、いきり立つ皆を押さえ、どうすべきかを協議する。とどのつまり、警察に通報してしまえば、自分達が、強盗犯を捕まえたと世間ははやし立てる。折角、静かで真っ当な暮らしを手に入れたのに今更、世間の耳目をそば立たせたくない。そこで、自首を勧めることにしたが、犯人は、中々、決心がつかない。そこへ巡回中の警官がやって来て手配写真を見せ「見掛けなかったか、注意をするように」と言ってゆく。その時、警官自身が犯人を見て、犯人ではないか? と疑うのであるが、高倉が、一芝居打ち、難を逃れる。頭を叩いて「てめえが良く似ているから、こんなことになるんだ」とばかりにやったのだ。これは、歌舞伎の「勧進帳」を思わせる。犯人も漸く、庇ってくれた人々が自分などより遥かに苦労人であり、それ故に優しく接してくれたことに気付く。そして、自分が、最早、独りではないらしいことにも。それは、警官の点数稼ぎにさせないよう、天津達が隣町の交番近くまで付き添うことになったことにも現れている。出掛けに「行く所が無かったら、ここに来い」と声を掛ける高倉の言葉が温かい。

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    2013/10/25 13:28

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