「スタニスラフシキー」すら超越した「魔性」
ロシアの演出家•レオニード•アニシモフ氏を迎えてのドストエフスキー代表作『白痴』。
同劇団は「スタニスラフシキー•システム」の実践を掲げる。
神保町の古本屋に行けば、「スタニスラフシキーの本ありますか?」という客がいるし、あのハリウッド女優•アンジェリーナ•ジョリーも 継承者だ。
日本国内の演劇(映画)ファンで知らぬ人はいない、超大物だろう。
「学説」として理解するのと、「舞台」を観て理解するのとでは やはり違う。
もちろん現代の演劇ー映像作品の骨幹を築き上げた「父」の名称を手にするスタニスラフシキーなので、今回の『白痴』を観劇したからといって彼に初めて出会った日にカウントできない。
だが、発祥の地•ロシアで長い間、モスクワ芸術劇場等で実践をされてきたレオニード•アニシモフ氏演出の『白痴』を観ることは「別次元」の機会だった。
観客の総意に他ならない。
「白痴」のムイシュキン役を演じた、菅沢 晃 の魅力•資質が全てだった。
台詞を声に出したとは思えない、身体性も含め「白痴の公爵」だったのである。
※ネタバレ
「魔性」の声だ。
「白痴」の純粋な心の中に、相手の心さえ掴み取る。
相手の辛さ、苦しみを解き放ち、純粋な心と一体化してくれる。
おそらく、「白痴」こそ本当の心理学者なのだろう。
私には どうしても この様子が「舞台」に思えない。
これが「自然法則に基づくスタニスラフシキー•システム」の威力なのか…。
いや、…いや、…菅沢 晃という役者ひとりの「魔性」である。
全体を見渡せば、「惜しい」面は たくさん。明らかなミス•キャストも壮大なドストエフスキーの世界観の邪魔をした。
唯一、圧倒的な事実を述べたい。
そうした欠落点を覆い隠す魅力、威力、そして「魔性」が ひとりの役者に あったということを。