熱海殺人事件 公演情報 47ENGINE「熱海殺人事件」の観てきた!クチコミとコメント

  • ゆるやかな「変貌」に引き込まれた
    笑いが 「零れ落ちる」、まさに そのような表現こそ相応しい。

    劇作家•つかこうへい氏の代表作『熱海殺人事件』を、2013年の最新ワードや昭和の歌謡曲を扱い、新たな作品として変貌させた。
    劇作家に対する、これほどのオマージュもないだろう。
    幕開け、キャスト紹介の後、「つかこうへいリスペクト!」と、プロレスのマイク•パフォーマンスを彷彿させる口調で語った そのコトバは本物であった。


    キャスト紹介前の約15分間にわたって繰り広げられる冒頭のシーンは、部長刑事•木村伝兵衛(宮川浩明)の人物像を 探るには十分な時間だったと思う。
    過去、上演され続けた『熱海殺人事件』において、木村伝兵衛は異常者として描かれるケースが占めるが、本作も「常道」を選んだらしい。

    私は「新たな作品として変貌させた」旨を述べた。
    そして、「変貌」というのは作品全体の話だけではなく、最新ワードー昭和歌謡曲の「変貌」であり、コメディーシリアスの「変貌」を指す。
    違和感を生じさせない。
    ある程度、観客も把握できるほどの「変貌」ではある。
    ゆるやかな起点を示し、観客を引き込んでしまう構成は、圧倒的な「調整力」に他ならない。

    ネタバレBOX

    大山金太郎(永里 健太郎)の登場シーン、それはボクシング•タイトルマッチの入場を思わせる。

    試合の内容を紹介すると、『サザエさん』(長谷川町子 朝日新聞社)の「タラちゃん」や、郷ひろみ のカラオケ大会が始まるなど「コメディ」一色。
    すっかり その流れに安心してしまい、誰もが「このまま続くのかな…」、あるいは『熱海殺人事件』を知ってる観客であれば「どの段階で、熱海のシーンに切り替わるか」を考え始めた。

    だが、被疑者の 大山が ノリのまま話すのに対し、明らかに他の三刑事の表情は曇る。
    「キッカケ」があり、それに合わせる形で他の登場人物が「シリアス」へ変わったのなら、まだわかり易い。
    流れの中で、それも観客が把握できる勢いで「変貌」したシーンだった。

    『熱海殺人事件』は大山を常識人として描くケースも あるが、一人ひとりの登場人物の「像」は幅広い。


    「熱海の回想シーン」について述べると、メインキャスト唯一の女性にして木村の部下である水野朋子(黒澤はるか)に触れないわけにはいかない。

    スーツをスタイリッシュに着こなす彼女は、一流モデルのプロポーションだ。
    まるでクリスタル•グラスの清潔感。

    そんな女性が、「長崎一のブス」になり切る。
    風俗店で「苔」の役割を担わされる「ブス女」を、一流モデルのプロポーションを有した女性が なり切るのである。

    格差社会に囲まれ、また一人の女としての「涙」を流す彼女は ある意味、センセーションだった。
    「演劇」を考えた場合、こういったギャップには触れるべきではないかもしれない。
    ただ、木村=宮川の頭髪、大山=氷里の風貌を 「笑い化」したシーン等を考慮すれば、狙った面も あるだろう。


    シーン全体に話を戻すと、やはり「迫力」を感じざるをえなかった。
    氷里(役 大山)の本領発揮とともに、激流の展開は作品全体のハイライトである。


    作•演出の松本和己は、マツモトキヨシ創業者の孫で、元衆議院議員だ。
    どうせなら、観劇した人用の「マツキヨ•クーポン」が欲しかった。

    といっても、私は松本和己の政治家の顔を強調したい。

    「玄海原発、…要りませんよ」(冒頭 木村のセリフ)


    最新ワードと昭和歌謡曲を織り交ぜたのは すでに明らかにしたが、
    原子力発電所の話題を持ってきたのは元衆議院議員だからこそ。
    彼が脱原発の政策メニューを取り揃えているのなら、それを舞台に活かすのも手だ。

    つかこうへい自身、現代社会に住み着く「権力」「差別」といったテーマを 織り込んだ劇作家だろう。
    社会構造の中の、「男と女」は極めつきだ。
    シェイクスピアから続く伝統である。

    旗揚げ公演にて「つかこうへい」作品を上演するからには、一種のDNAを継承してほしいとすら思う。


    文句ではないものの、ラストの展開は「カットも有りかな」だ。

    騙されたのは事実だ。
    木村のキャラクター性が増幅したのも確かだ。

    しかし、今までの「変貌」ぶりから比べると、それが過ぎたのだ。


    「掃除のオバサン」の役で出演した マミ スーに関しては、生歌を聴く機会を あと一回は与えてほしい。
    配分が どうだったのか、極めて疑問ではある。
    だとすれば、今こそ「調整力」の出番ではないか。

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    2013/10/08 00:58

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