“少女”が抱いた「温もり」への序章
旋律さえ走る「崩壊」の後に、「温もり」を感じた。
それは雪の積もる野原を照らす、提灯の「温もり」である。
今作は、世界史に残る楽聖•ベートーヴェンと、その影を通して、「愛の形」を静かに語った作品だ。
2013年の父ー娘、1800年代のベートーヴェンー不滅の恋人の関係性がクロスし、思いもよらない「感動」が待っていた。
佐々木美奈の演じる籠島みちる…。
私は、みちるの内に秘められた繊細な「少女」の様子を称賛しなければならない。
生き別れたベートーヴェン研究家の父親(籠島丈一郎)を愛する気持ちと、その人を軽蔑する家族…。
20歳を越えたはずの「少女」は傷ついていた。そして、肩を抜いたまま決して威張ろうとしない身体性が「健気」を現す。
身体性で、これほど心 打たれた演劇も少ない。
『観たい!』の「70%の具現化」は、つまり そういうことだったのだ…。
「愛の形」を形作る、狂い だとか、弱さを、その身体性で 目に見える形にしてくれる。
2013年と1800年代のシーンの境目は、絶妙の一言だった。
おそらく、短過ぎても、長過ぎても観客の心を離しただろう。
また、前者の ともすると暗いエピソードを経た後、強烈な「ベートーヴェン」の登場する後者のバランスが極めてよろしい。
古賀司照の 鋭い視線をみれば、誰しも「額縁の肖像画」を思い出す。
これも重ねて「身体性」の話になってしまうが、指摘する必要がある。