『起て、飢えたる者よ』ご来場ありがとうございました! 公演情報 劇団チョコレートケーキ「『起て、飢えたる者よ』ご来場ありがとうございました!」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    自己批判します
    連合赤軍あさま山荘事件を題材にした作品。
    異様なルールを持つ組織の凄惨なリンチ、生中継や
    女性リーダーの人間性が話題になった事件だが
    実は閉鎖的な集団における“思想に理想を求め過ぎる頭でっかち”達の暴走劇でもあった。
    組織の中で自分を守るために強いものに服従し、暴力に名目をつけて正当化する。
    その根底にある人間の弱さをえぐるように描いた脚本が素晴らしい。
    ラスト、銃口の前にたたずむ坂上の表情がこの組織の終焉を示して秀逸。

    ネタバレBOX

    対面式の客席から見下す舞台は、いかにも山荘のリビングらしい部屋だが
    テーブルの上にごつい荷物が積み重なっていてのどかさはない。
    男たちの「起て、飢えたる者よ」というインターナショナルの歌が次第に大きくなる。

    軽井沢の山荘に連合戦線の5人が逃げ込み、管理人の妻を人質に立てこもる。
    リーダーは紳士的に接するが、やがて彼女を“オルグしよう”という意見が出る。
    平等な世の中を作るために闘っている自分たちは、人質などという不平等を否定する、
    理念を伝え教育を施し、彼女を同志にして共に闘おうというのである。

    いやいやそれは無理でしょ、という思惑に反して彼女は驚くべき変貌を遂げる。
    夫に従い自分の意志を持たず、責任からも逃れていた自分を認め総括したのちは
    覚えたての革命用語を駆使して男どもを一喝、
    「総括」できない同志を批判して黙らせ、ついには5人を従えて君臨する。
    そして(男たちが極度に怖れる)「永山さん」と呼ばれるようになる。
    組織はどこかで“永山さん”を必要としている、という怖ろしさ。
    渋谷はるかさんの「言葉ってすごいわね」という台詞に実感がこもる。

    こうして女が突出する一方で、男たちは分裂していく。
    せっかく永田から逃れたのに、結局同じことをして仲間を死に追いやり、5人は3人になる。
    組織と思想の終わりを悟った坂上の決断、それを覆す“永山さん”。
    “最後の闘士”はついこの間までおどおどしていた管理人の妻だ。
    その妻がひとり、警官隊に向かってライフルを構える…。

    思想が偏っているというより、運用する人間が偏っていたということが伝わってくる舞台。
    疑問を持ちながらもやらなければやられる恐怖心から、皆暴力に加担していく。
    リーダー坂上役の岡本篤さん、抑えた台詞がキャラに陰影を与えて
    死の瞬間まで魅力的な人物像を作り上げている。
    一人別組織から加わった坂内を演じた浅井伸治さん、
    孤立した立場ゆえの不安と焦燥から
    常に優位に立とうと激しい態度に出る姿が痛々しいほど伝わってくる。
    江藤兄を演じた西尾知樹さん、最初に処刑された長兄の復讐のため
    組織を誘導して来たと告白する後半、
    真意を明らかにする心情が切なく、キャラに奥行きがあった。

    管理人の妻を演じた渋谷はるかさん、
    変貌のプロセスに無理を感じさせない演技が素晴らしい。
    消え入りそうな声から恫喝する声まで、自在な台詞が舞台全体をけん引する。
    総括後に夫からの電話に出た時の声、男たちが思わず凍りつくような変化を見せる。

    小さな日めくりを破いて時間の流れを示す演出が効果的。
    照明による切り取り方もとても良かったと思う。

    人を幸せにするどころか死人を増やすとは、何と虚しい思想だろう。
    思想と社会、社会と組織、組織と個人、個人と自由、
    そして人は誰でもこんな風に変わる…。
    劇場を出てしばらくはドミノのように次から次へと思いめぐらさずにはいられなかった。
    駆け抜けるような2時間超の充実。
    3年ぶりの再演に心から感謝します。

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    2013/09/20 23:19

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