満足度★★★★★
現代版『ヘッダ・ガブラー』
あのセット。あの幕開け。劇団砂地らしさを観た。正直言えば、彼等のオリジナル作品に感じた衝撃とは少し違う。けれども、既存の名戯曲への挑戦の意味は感じ取れた。「好き」「嫌い」の意見が分かれる作品だろう。それはつまり、チャレンジしたことの証明であり、一石を投じているということ。ライターの火花が、スマホの写メ、音楽機器(ipod?)などの導入などは、斬新であり、現代風演出の象徴と言える。最大の冒険はあのブース。これまで観た多くの『ヘッダ・ガブラー』では、奥の間であり、目にすることはなかった。それが「籠」という存在として見える場所に。レーヴボルグの視線が、かつてのヘッダとの関係を語る場面で、ヘッダとブースを交互に捉える。グッと関係性が浮かび上がる。初日らしい緊張感が漂う中、レーヴボルグ役の田中壮太郎さんの登場で、物語が立ち上がり、動き出すのを感じた。これまで幾つかの『ヘッダ・ガブラー』を観たが、今回、初めて感じたり気づいたりしたことが幾つもある。それが演出家の解釈力か、見えなかった部分を見させる演出力なのだろう。特筆すべきは、テアの存在の大きさだ。これまでは、誰かに依存する弱い女性と捉えていた。今回のテア役、小瀧万梨子さんに脱帽。わたしが観劇に足を運ぶきっかけとなった『奇跡の人』初演のアニー・サリバン役の大竹しのぶさんを観た時の衝撃に匹敵する。小瀧さんが醸し出す、危うさや、揺るがない軸や、そこに立つことの覚悟に、目が離せない。生涯、この女優さんの演技を追い続けることを、固く決心した。