Hedda 公演情報 演劇集団 砂地「Hedda」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    ”上から目線”のヘッダ・ガブラー
    “自由”とは“自分の意思決定に他人が影響しないこと”かもしれない。
    誰かの意のままになるくらいなら、銃で頭を撃ち抜く方がマシなのだ、
    ヘッダにとっては。
    自由で繊細な照明と意表をつくセットが秀逸。
    時折幽かに聞こえるBGMに思わず耳を澄ませてしまう。
    ヘッダの身勝手な強い視線が印象的。

    ネタバレBOX

    舞台スペースを挟んで客席が向かいあうように作られている。
    舞台奥にピアノ、その向かいには透明な喫煙室が設けられていて
    喫煙室の中に入ると、外の音は遮断されて聞こえない設定になっている。
    旅行用の大きなスーツケースがひとつ置かれている。
    床に2カ所ほど格子のはまった四角い穴があって、中に照明器具が見える。

    多くのライバルを蹴落としてヘッダ(小山あずさ)と結婚したテスマン(稲葉能敬)。
    新婚旅行から帰って来た二人の会話からは早くも温度差が見てとれる。
    教授職を期待して結婚を決め、優越感に浸るハイテンションな学者テスマン、
    明らかにそんな彼に、そして彼を夫に選んだ自分にもイラついているヘッダ。
    そこへヘッダのかつての恋人レーヴボルグ(田中壮太郎)がやって来る。
    天才肌で自堕落な生活をおくっていたレーヴボルグは、
    今や著書が大人気でテスマンを凌ぐかのような勢い。
    彼の仕事を支えたのはヘッダの友人エルヴステッド夫人(小瀧万梨子)だ。
    世渡り上手でヘッダに下心を抱くブラック判事(岸田研二)もやって来る。

    “いいやつ”だが凡庸な男を夫に選んだヘッダが
    すっかり変わったレーヴボルグと話す場面、喫煙室にいる人々とは
    “見えるけど聞こえない”状況で互いをけん制しつつ距離ができる。
    時折喫煙室に目をやりながら緊迫したやりとりを交わすヘッダとレーヴボルグ。
    やがて彼が酔って落としてしまった大切な原稿を
    あろうことかテスマンが拾って来たところから一気に事態が転がり出す。
    預かった原稿を喫煙室で燃やすヘッダは、素知らぬ顔でレーヴボルグを迎える。
    そして絶望的になっている彼に、父の形見の拳銃を渡すのだ。
    もう、これで死ぬしかないわねと言わんばかりに。
    ヘッダの思惑通りレーヴボルグの死が伝えられる。
    だがその死に方は彼女が予想していたものではなかった…。

    無機質な舞台に現代的な衣装(ヘッダはニーハイブーツにミニドレスだ)、
    透明な喫煙室と最小限に抑えた照明が効いている。
    ヘッダがカチカチと点けたり消したりするライターの火花や
    床下から天井に向けられた照明、懐中電灯の灯り等が暗闇の中で際立つ。
    たぶん原作では隣室なのだろうが、それを透明な喫煙室にしたことで
    内と外との人間関係にハラハラするような緊張感が生まれた。

    時代や価値観は大きく異なるが、ヘッダを突き動かしたのは普遍的な理由、
    つまりは“女の嫉妬”ではなかったか。
    かつて棄てた男が立ち直ったのは支える女がいたからだ。
    その女は昔自分がいじめていた、大したことない女で
    今またその女が、自分の夫と、失くした原稿を再生しようと盛り上がっている。
    そして何よりレーヴボルグは、あの拳銃で”自殺”したのではなく
    別の女に撃たれて死んだのだという衝撃の事実。
    ブラック判事が、“拳銃の出どころを秘密にしてやるから言うことを聞け”
    と言ってくるのもむかつく。

    “人生全て上から目線”だったヘッダ・ガブラーが
    自分のこめかみに拳銃を撃ち込んだ理由は、案外素朴な感情だったのかもしれない。
    それはヘッダにとって何としても認めがたいものだったのだろう。
    ヘッダが、すれ違いざまエルヴステッド夫人の髪の毛をむんずとつかむ場面、
    高貴な家の出だろうが何だろうが、“コンチクショウ”はあるんだよ、
    学生時代からの力関係を思い知らせてやる!という迫力がすごい。
    だがそのヘッダは、レーヴボルグが最期に会った1人の女に完璧敗北を喫するのだ。

    レーヴボルグを演じた田中壮太郎さん、立ち直ったけどどこか危うい男の
    コンプレックスと色気の混じった表情がとても良かった。

    何だか現代の“婚活”を思わせるような、女の選択が興味深い。
    それにしても“強い”って生きにくいものだなあ。

    0

    2013/09/12 02:03

    0

    0

このページのQRコードです。

拡大