満足度★★★★
紗幕・照明・映像で作られる幻想的空間
ブルーノ・シュルツの小説を原作とした作品で、小説は未読ですが、多分かなり自由にアレンジしていて、物語性はほとんど感じられないものの、独特の幻想的な雰囲気が濃厚で美しかったです。
舞台前面に下げられた紗幕に映像が映し出され、下手で幕の手前に立つ佐東利穂子さんに長方形のスポットライトが当てられる中、幕の向こうで勅使川原三郎さんが踊る、空間の奥行きを感じさせる冒頭の後、紗幕の下端が舞台奥側に引っ張り上げられて、たわんだ天井の様な状態になり、空間の雰囲気が一変したのが印象的でした。その後も多彩な照明・映像・紗幕によって様々な質感の空間が現れていました。
静かな印象のダンスが続く中、バルトークのヴァイオリンソナタで一気にエネルギーの溢れる動きになり、スピード感と持続力のあるダンスが圧巻でした。
終盤はバッハの平均律クラヴィーア曲集が流れる中、静かなダンスが続き、喜怒哀楽のいずれとも異なる独特の情感がドライに醸し出されていました。
意図的なのかも知れませんが、音響の繋ぎ方が振付や照明の精度に比べて粗く感じられたのが残念でした。
分かり易い物語や感情表現が無いので取っ付き難い印象はあるかも知れませんが、劇場空間とダンスを通じてしか表現出来ないものが沢山詰まった作品で素晴らしかったです。かなり空席があったのが勿体なく思いました。