被告人~裁判記録より~ 公演情報 アロッタファジャイナ「被告人~裁判記録より~」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    裁判を入口に
    記憶に新しい裁判から歴史の一ページとなった裁判まで、
    実存した5編の裁判記録をベースに
    5本の二人芝居が編まれて。

    単純に裁判自体を再現するのではなく、
    それぞれの裁判から垣間見える人や世界が
    しっかりと作りこまれていて、
    しかも、それぞれから切り出されるものの色が
    異なる方向性や表現を持っていて見飽きることがない。

    舞台に紡ぎだされた世界を、
    漏れなくたっぷり楽しむことができました。

    ネタバレBOX

    初日を観ました。
    会場に足を踏み入れてちょっと驚く。

    役者達が演じるスペースは横6×縦5の椅子で囲まれて、
    まさに囲み舞台。
    最前列の幾つかの椅子には 養生テープで×が記されていて。

    2列に並べられた椅子の外側にさらにもう一列。さらに、ルデコ4Fならではの
    鉄骨で組まれたスペースにもう一列客説がしつらえられ、演者と観客の距離が極めて近く濃密ななかでドラマが織り上げられていきます。

    (1)秋葉原無差別殺人事件

    多分、弁護人が情状酌量を勝ち取るための、
    被告への尋問を行った部分を切り出しているのですが、
    そこから引き出される被告の育った環境が
    そのまま観る側をぐいぐいと惹き付けていきます。

    ひとつずつ確認される事実から晒されていく、
    そこにはいない被告両親の風貌に息を呑む。
    すこしデフォルメされた弁護人の熱の帯び方にも力があって、
    被告に解けていく戯曲が表現しようとするものにさらなる陰影を与えて。

    会話のリズムもとてもよく、
    役者達の感情もよくコントロールされていて、
    戯曲の企みがしっかりと端正に伝わっています。
    ただ、その会話が揺らぎなくスムーズすぎて、
    被疑者が抱く想いや躊躇の現れ方が、
    すこし単調で表層的な印象をを作ってしまったのが
    ちょっと惜しい。

    (2)連続不審死事件(被告人:木嶋佳苗)

    公判時の被害者家族の証言を元にしているのでしょか。

    この事件も記憶に新しいし、
    最終判決もまだ確定していなかったと思うのですが、
    事件の全体像に加えて、その時のもうひとつの記憶として
    週刊誌や新聞、ワイドショーなどで語られる事実が、
    どうにもぴんとこなかったというのがあります。
    なぜ、男たちが写真やテレビでみる女性の毒牙にかかったのか
    感覚的に理解できなかったのです。

    でも、舞台の役者達は
    何かが欠落した、禍々しく、生々しい女性の姿を
    舞台にしなやかに解き、会場全体を取り込み
    事件のありようを観る側に得心させてしまう。
    この、このどうにも言葉に表し得ない女性の質感を
    戯曲に切り取った作り手と
    なにより舞台上に解いた役者の圧倒的な
    お芝居に感嘆。

    被害者の娘役の役者も、その怪物にしっかりと
    立ち向かってはいたのですが、
    とまどいよりも憎しみの切っ先が強く演じられていて。
    公演を重ねるなかでもうひとつまみ、そのバランスを細かく作ると
    さらにインパクトをもった人物像が生まれるかもしれないと思いました。

    (3)日本社会党委員長刺殺事件(被告人:山口二矢)

    昭和30年代中盤に起こった事件、
    写真や映像で何度かその瞬間は、とても衝撃的でした。

    戯曲は、留置されている被疑者と面会の少女の会話を切り取っていきます。
    被疑者の言葉と少女の表情の
    交わる部分と交わらない部分の一様にならない
    編みあがり方がとてもよいのですよ。
    最初は静かなたたずまいでの被疑者の言葉が、
    少女の受応えと、なによりその表情に、
    理解されうるものとされえないものに判別されて、
    だからこそ次第に彼が抱く思いを溢れさせることに
    理が生まれる。

    被疑者のお芝居も、刹那ごとのテンションのつけ方や
    尺の中でのメリハリを含めて
    よく練られたものだったとおもいます。

    そして、少女の表情の作り方には天賦の才を感じたりも。
    初日の舞台ということで
    台詞がロールが抱くためらいではなく、単調に感じられる一瞬があったり、
    立ち上がったときの言葉を待つ所作が
    ややニュアンスを手放す一瞬もありましたが
    舞台を重ねていけば、そのあたりはきっとなくなるはず。
    この人、
    楽日に向かってひと化け、
    そして、今後踏み重ねていく舞台でさらに大化けする
    何かを秘めている感じがしました。

    (4)226事件(被告人:磯部浅一)

    2.26事件については歴史の教科書で学んだ程度、
    不勉強で登場人物の名前も知りませんでした。
    でも二人の男のガチ芝居は、
    それぞれの登場人物に骨の通った存在感を与えていきます。

    被疑者の男が、自らの思想を語る場がきちんと作りこまれていて、
    彼がその理想に傾倒していく顛末も、説明ではなく心情の表現の中で
    しっかりと組みあがっていく。
    予審尋問的なことを行っている彼の後輩も、
    単に反論を述べるのではなく、
    自らの心情の抑制のなかで、彼の理想に反論していく。
    理論のぶつかり合いと先輩後輩の立場が
    乖離することなく、会場のタイトな空間に編み上げられていくので
    観る側も、良い意味で逃げ場をうしまい、
    その熱に取り込まれてしまう。

    その上での、
    命を賭して自らの理想が受け入れられなかった、
    被疑者の叫びjは、その中味への賛否を超えて、
    人がさらけ出す絶望と無念のありようを
    冷徹に織り上げていました。

    (5)異端審問裁判(被告人:ジャンヌ・ダルク)

    ジャンヌ・ダルクが自らの裁判の中で
    一旦それまでの言動を否定する文書に署名をした後、
    神からの啓示を受けて叛意したその刹那を
    切り出した作品。

    闇が支配する空間に
    燭台と水桶が置かれ、
    それらを挟んで、主人公の想いと神に対する翻意を諌める声が
    重なっていきます。

    炎のあかりに浮かび上がるジャンヌダルクは
    息を呑むほどに美しかった。
    女性というよりは少年に近い語り口が
    ロールを徒に美化せず、実存感を与え、
    そのやり取りが、
    心情の移ろいを
    光の揺らぎ以上に滲ませることなく
    しなやかに伝えていく。

    さらには 心を翻し、
    署名した紙に火がつけられ
    闇から解き放たれた彼女の姿に
    身を賭して神の啓示に自らをゆだねることの
    静かな高揚が浮かんで。
    そのありようが目に焼付いたことでした。

    諌める側の台詞の響きや強さも見事に制御されていて
    役者達が紡ぐ一呼吸ごとの時間に
    取り込まれて。
    ただ、しいて言えば、
    会話の中で、主人公の台詞に込められた想いの温度が、
    一つずつのやりとりごとに細微に変化はしていたのですが、
    やり取りの中での色のさらなる変化はあまりなく、
    均一に作りこまれていたのが
    少しだけ残念に思えて。
    なんだろ、想いの生地が広げられるときに
    その図柄は会話のごとに均質に織られた布地に、
    滲みなく、とても精緻に、鮮やかに描かれ、重ねられていく感じ。
    それは、物語の構造をより明確にはしてくれるのですが、、
    舞台とのあの距離で醸し出される空気の中では、
    よしんば、風合いがざらついたり、色が混ざりあい端正さを失ったとしても、
    一行の台詞の中での、
    糸の一本ずつが持つ色の織り上がりで観たいなぁと思ったりも。

    作品の描き出すもの自体は精度を持って作りこまれていたので
    ステージごとに会話が解けても、
    耽美な空間は崩れることはなく
    観る側をより凌駕するものに育つ予感がしたことでした。

    *** *** 

    まあ、初日の観劇で、公演を重ねるごとに
    きっと伸びるであろう余白を感じる些細な点はあったのですが、
    よしんばそうであっても、裁判の記録を枠組みにして、
    しかもそのフレームに過度に捉われすぎることなく生かし
    物語を切り取るアイデアと、そこから導き出されるものと、
    編み上げられた戯曲に喰らいついていく
    役者たちの演じる志には、ただただ目を瞠りました。

    このメソッドというか作劇の手番は、、
    作り手や役者たちが紡ぐ様々な物語への新しい切り口となり
    観る側を満たし、更なる果実を期待させるものだったと思います。

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    2013/08/31 10:35

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