夏の伝説 公演情報 劇団俳協「夏の伝説」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    しっかりした劇団
     壮大なシナリオで、地方の因習も良く捉えられており、負荷の高い方言による公演とうのも準劇団員公演の水準を示す意味で良い試みだろう。無論、それだけの質を獲得する為に大変な訓練を重ねてきた上でのことである。複雑な男女関係の描き方、近親相姦を明かすタイミングの上手さも評価したい。開演直後、若干、固い演技も見られたが、興が乗るに従って良くなった。巫女役の和服の着こなし、歩き方も和式の定法に則ったもので、流石歴史のある劇団だと思わせる。(追記2013.8.25)

    ネタバレBOX

    土佐の山奥の平家落人伝説が残る、僻村。日の当たる富裕層の住む集落と日陰の貧しい者の住む集落には、隔てがあるものの、元々は、落人の末裔とされる一族郎党、実力者、光永 健二が、影村の出稼ぎに出たまま戻らぬ夫を待つ人妻や、後家を妾にして生活の面倒を見ているといった具合だ。だが、健二は、妾の誰一人、本当には愛していないし、妾の側でも、敏感な者は、健二の心の在りかを察してしまう。その結果、一人の女が、自死した。
     この集落には、旧正月に亡くなった女は、仲の良かった女七人を冥途へ連れ去るという言い伝えがあった。舞台は夏の盛り。夏祭りの前に、死んだ女の魂を弔うために、亡くなった女に縁の深かった七人の女が集まり、魂を送る儀式を取り行っている。そこへ、通りかかった測量技師、香納 大助は、出稼ぎに男衆の殆どが出ているこの部落で、久しぶりに現れた、若く、美しい青年として歓待されるが、彼には、村の旧家の当主、光永と会う約束があった。然し、この儀式には、健二の妹、壺野 藤が、主賓として招かれてもいたのである。彼女は、この集落の伝説の主、安徳を慰める巫女であると同時に、健二の妹でもあった。兄の健二は日向に住むが、女手が無い為、大助は、藤の家の厄介になる。極めて美しくたおやかな娘、藤に大助は、夢中になる。然し、山中の口喧しい世相も理解する大助は、無論、あからさまにそのような態度を出すことは控え、胸の内にそっと秘めておく。
     約束の会合に現れた健二は、吊り橋を私財を投じて作り、道を通した先代の話とその結果、隔絶していた集落が、外界と繋がり、人口は以前の四分の一以下になったこと、健二は、集落全体の移住計画を練っていること、その為に、地域の実情を実地に調べ、他地域にある、健二の地所に集団移住できるように移設計画を練って欲しいことを明かす。無論、出稼ぎで都会に出た者達の中から様々な反発、反論がでることは目に見えている。それは在って当然だ。丁度、盆休みで多くの男衆が帰ってくる。その時に村会を開き、各々の意見を聞いて、最終的に事を決めたい、という内容であった。通常の損得勘定だけの依頼ではなく、大助も大いに興味を持てるプロジェクトだったので、彼は一所懸命に健二の述べた方向で集落調査、集落の将来へ向けての青写真を描いた。ところで、健二は一枚したたかであった。資本を有する者の常として、資産を有利に運用する為の手段を用意していたのである。
     そんな中、都会に出たは良いが、女房に少しでも早く、できるだけの楽をさせてやりたいと、望んでいた治平は、都会のチンピラヤクザのかもにされ、務所に送られる羽目に陥っていた。おまけに、出稼ぎ先で作った女の掛かりもあった。それら総ての面倒を見、保釈金を積んでシャバへ戻したのも健二であった。然し、治平は、それも罠だと勘繰る。挙句、体調を崩した女房を山の中で見付け、助けて連れて来てくれた大助に因縁をつける。体調を壊して、碌に話もできない女房に豪そうな口を叩いて、自殺に追いやってしまった。その罪を、他人になすりつけ、小台風の目となって、この後、暗躍することになる卑怯者というキャラクターだ。
     だが、治平の言っていたこと総てが、好い加減というわけではない。健二は、大助にはなしたのとは別のシナリオを描いて動いていた。それは、唯一の外界との交通路である吊り橋を破壊し、完全に集落を孤立させ、秘境と化すことであった。秘境を買いたがる小金持ちはいくらでもいる。それが、彼のはじいた算盤である。この計画を実現する為に村の地主から、土地を買い漁っていた。既に、所有権の殆どを手に入れていた。
     だが、今迄、述べて来たことは、この作品のメインプロットではなく、サブである。健二は多くの女とうきなを流しているが、実はその誰をも愛してなどいない。彼は、別の女を愛している。それは唯一、彼の愛する女、その名を妹という。彼が藤を巫女として影の集落へ追いやったのである。最愛の女を男として愛することが、許されぬ故に、巫女として追いやったのだが、藤も実は、唯一愛する男が兄であった為に、自らを一人の女として健二の愛を待つ為に巫女になったのであった。兄妹と言っても、藤は、遠縁の娘で偶々、老親が亡くなったので、健二の両親が、娘として育てたからなので、仮に、結婚しても血に問題はないのであった。兄妹の純愛はこのようであっても、嫉妬深い妾の目には、世界は違った見え方がしている。そんな妾の一人は自死した。残る一人は、事あるごとに突っかかってくる。健二と女は破局を迎える。
     その夜、女房に死なれた治平が、女をレイプする。女の恨みは健二に向かった。更に、女の母は、藤の邸で健二の母の面倒を見ている下女である。彼女は娘の無念を晴らす為に、聖所の合い鍵を大助に渡す。その「鍵を渡せと命じた人の名は言えない」ということで、恰もそれが、健二であるかのような印象を与えることを計算しつくして。
     大助は、安徳の祠に入り、藤に結婚を申し込む。藤は、祠へくる直前、兄に真意を告げ、裏の鍵を開けておくと言い置いてからここへきていたのに、待つ兄は何時まで経っても現れなかった為、大助の申し入れを受け入れる。祭りが終わったら、大助のものになる、と。
    然し、直後に、村の若衆が、大助の後を追っていて祠に辿りつき彼を連れ去ってしまう。その後に、終に、藤の待ちに待った健二がやって来る。二人は互いの本当の気持ちを確認し、情を通じるが、実は、二人が真の兄妹であったことが告げられ、健二は、捨てた女に刺されて瀕死の重傷を負った上で、この事実を聞かされ、終に、宝剣で自らの頸動脈を切って果てる。妹が後追いしようとするのを辛うじて止め、神の末裔である己が、罪を負って滅んで行く際の、ダンディズムをも表明するのだ。切なく、儚く、残酷な純愛物語は、心を撃つ。

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    2013/08/24 17:45

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