謎の球体X 公演情報 水素74%「謎の球体X」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    理不尽な主張
    ある夫婦の居間を舞台に、入れ替わり立ち替わり訪れる人々の“理不尽な主張”、
    “言われっ放し”の妻の立場がいつの間にか逆転している不気味さが面白い。
    あり得ない展開にも関わらず、台詞には「あーいるいる、こういう人」感ありまくり。
    この現実と非現実が平然と混在する空間が素晴らしい。
    全くもって地球とは、地球人とは謎だなあと再認識させる舞台。

    ネタバレBOX

    がらんとした居間には折りたたみ式のちゃぶ台がひとつ。
    家具らしきものはなく、引き出しが置かれているだけ。
    手前は縁側で外からも人が出入り出来る。

    健児(古屋隆太)は地元で「キチガイノババ」と異名を取る乱暴者。
    妻の増美(川隅奈保子)は頭に包帯を巻き、周囲は皆DVを疑っているが
    本人は否定している。
    この2人の家に様々な人がやって来る。

    「親友なんだから金を貸せ」と臆面もなく手を出す中学の同級生。
    大家の女性も増美の同級生で、増美が自殺未遂を起こしたことに責任を感じ
    一方的に心配しては世話を焼くのが生きがいみたいになっている。
    「台風でお父さんが死んじゃったからこの家で一緒に住む」と転がりこんできた妹は、
    かつて父親に溺愛され(性的虐待を受けていたことを愛情と勘違いしている)父と二人で
    姉である増美を置いてこの家を出て行った人間である。

    このほか、自分が病弱なことを恨みがましくくどくど言いたてる大家の夫や
    生まれて来た意味がわからず、増美の妹に「私を守るためよ」と言われて
    それを鵜呑みにするような男が登場する。

    まー、皆さん自分の主張を何の疑問も持たずにゴリ押しすることと言ったら!
    「え、でも…」「でもあの、本当に大丈夫ですから」「これは転んだんです」と
    常に形勢不利な状態で説明と言い訳に終始する増美が気の毒でならぬ。
    ところがまるで旦那→キツネ→鉄砲みたいに(古…)
    相手が変わると微妙に力関係が変わって来てそこが実に面白い。

    姉の意向を無視して居座ることにした妹は、いつの間にか姉に下女のような扱いを受ける。
    「俺に卑屈な思いをさせるな、喜んで介護しろ」と高圧的だった大家の夫は、
    やがて妻から見放される。

    「俺の言うことが聞けない奴は家族じゃない、出て行け」と言われて
    一度は家を出た増美だったが、結局戻って来て妹を追い出し、
    夫に家の修理を急かすような普通の奥さんになっている。
    (何気に同級生からせしめられたのと同じ金額の5万円を手に戻って来たのも空恐ろしい)

    この強引な理不尽の主張は何だ?
    世の中図々しく言ったもん勝ちか?
    そう思いながら観ているうちに
    終わってみれば何だか増美の思い通りになっている…。
    次第に増えて行く増美の包帯は目くらましだったのかもしれない。
    殴られながら夫を支配しているのかもしれないし、殴られていないのかもしれない。

    長めの場転の間が、自然と場を観察させ次を想像させる。
    突飛な主張を展開しているのに、台詞がリアルなので人物像に説得力がある。
    幽かなBGM、台風だと言いながら蝉が鳴いている静かな舞台が非現実的で
    ”謎の球体”っぽさを醸し出す感じ。

    キチガイノババ、健児を演じた古屋隆太さん、
    ぬっと出て来ただけでアブないタイプと判る存在感大。
    か細くて頼りなくて、世間知らずの典型のような増美役の川隅奈保子さん、
    外に対しては下手に出るが、妹にはきっちり言うことを言う(言い過ぎるほど)。
    “家族だけが信頼できる”とする夫に対して
    “家族だから許さない”妻のスタンスが鮮やか。

    宗教・政治・家族・お隣さん、強力に主張する人々に従ってしまう凡人、
    あー私も危ない、しっかりしよう。

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    2013/08/18 03:23

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