オーラスライン 沢山のご来場ありがとうございました 公演情報 七里ガ浜オールスターズ「オーラスライン 沢山のご来場ありがとうございました」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    実力派
     政治屋とつるんで、票獲得の手段としても、手下を利用してきた大物(・・)演出家が、全国からオーディションの応募者を募った。2000人の応募者の中から選ばれた600人の第一次審査会場のある建物の待合室が舞台だ。

    ネタバレBOX

     他の部屋は、応募者が鮨詰めで息をするのも苦しいほどだが、ここには、6名、ゆったりはしている。だからと言って平和なわけではない。其々は其々の事情を抱え、内心穏やかではないのだ。例えば、一人は殺人請負会社の社員である。今日は暗殺の密命を帯びて来ているのだ。無論、彼自身は人殺しなど嫌いである。仕事だから淡々とこなしているのだが、迷いが、隋所に現れているのも事実だ、とか。反対に幼少の頃から母に連れられて観ていた、宝塚などのミュージカルに魅せられ、8歳の時からダンスを習い、体操に励み、ミュージカルを学ぶに至った。という、まあ、応募してくる動機を普通に持った、至極目立ちたがり屋の若者も居る。
     一方、小さな頃から、自分は何をやっても駄目で、クラスの皆から笑い物にされるのでなければ憐れまれているとのコンプレックスを何とか克服したくて、毎年、応募してきたのだが、毎回、待っている間に、肥大したコンプレックスの為に、オーディションを受けることなく戻ってしまう子、緊張すると腸の調子が悪くなり、漏らしてしまうので、何とかその悪癖に打ち勝とうと矢張り毎年チャレンジして居る人、このオーディションの広告を受け持つ広告会社の営業マンだったが、毎年取っていた仕事をライバル会社に出し抜かれ、ボーナスもカットされたので、クライアントの内側へ入り込んで、あわよくば、オーディションに合格し、それを放映されることで溜飲を下げようとのオトシマエ派、ずっとフリーターをやって来た男の単なる就活など。
     こんな人々は、互いに雑談しあうことで、各々、少しリラックスしてオーディションに臨む気になるのだが、兎に角、待ち時間があまりにも長い。不満も溜まる。その不満が、スタッフに向けられた。ところが、スタッフが、逆切れ、自分の情況がどんなものか、実際に一次オーディションに合格した後、どうなるかについて具体的な話が展開される。1万人の希望者に対して、その希望を実現できる者は1人しか居ないと言われるこの業界の、下働きをしている者の言葉に、応募者全員が撃たれてしまう。
     そんな中、次のオーディションを受ける者に呼び出しが掛かるが、順番では、審査員を殺すミッションを帯びた殺し屋であった。紅一点の受検者、コンプレックスの塊のような女の子に何とかチャンスを与える為、殺し屋は、彼女に順番を譲るが。
     ラストは観てのお楽しみ。
     タイトルからも推察できるように、「コーラスライン」を下敷きに、麻雀のオーラスを絡ませている所に、脚本家のセンスを見るべきだろう。つまり、長い待ち時間を半チャン、通常2時間のマージャンに例え、そのオーラスに掛けているのである。
     舞台上はパイプ椅子が舞台奥と上手に並べられただけの裸舞台、下手には、ドアノブのついた横木だけでドアを表した出捌け口。つまり、完全にシナリオ、演出、役者の技量、照明、音響などの効果だけに頼った実力派の舞台構成である。結果、裏切られなかった。 
     舞台上に常にいるのは、オーディションに参加する志願者、彼らは、徒然に話をしたことで、一種のコミューンを形成している。これに対して、次の受検者を呼び出しに来るスタッフは、他所者である。だからこそ、ドラスティックなコミューン変容のきっかけを作りだすのである。この辺りの普遍的構造を実に巧みに業界内部の話に転移し、あまつさえ、オーディションには、来そうもない殺し屋、それもサラリーマンとしての殺し屋というキャラクターを設定することで、滑稽と意外性を加え、そこで生じる齟齬を逆用して、物語に深みを加える手法、実に見事である。
     更に、小劇場の特性を活かし下手で身体パフォーマンスが行われている時、同時に上手では、科白中心の演技が行われているなど、同時進行的に異界が共存する、せわしない現代を表象するような演出も気が利いている。作品はちょっと短めで65分~70分程だが、内容の詰った、たるみの無い楽しめる舞台に仕上がっている。

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    2013/08/15 04:58

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