雲の影 公演情報 スポンジ「雲の影」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    男の「三人姉妹」
    美術、照明、音楽、場面転換など隅々までセンスの良さと独自性にあふれている。
    客入れの時から不穏な空気を醸し出す音楽が効果抜群で、もうその時点で始まっている感じ。
    キャラにはまった役者陣の台詞が生き生きとして後半怒涛の展開が見ごたえ十分。
    緩急のある台詞がスポンジの魅力だが、今回も固唾をのむような台詞が飛び交った。

    ネタバレBOX

    舞台手前は整体院の受付の内部、一段高くなった舞台奥は外であり、
    同時にパチンコ店でもあり、スナックの店内でもある。
    開演前には何か雑然とした印象を与える舞台だったが
    照明に導かれてその時々のスポットに集中すると全く違和感がなかった。
    この舞台の作りが面白く、場面転換がスムーズに運ぶ要因でもある。

    整体師の遠藤が高校時代の同級生野村に共同経営を持ちかける場面から始まる。
    野村が了承して、次の場面はもう3年後くらいである。
    野村は「打ち合わせ」と称してパチンコや喫茶店で時間をつぶし
    地道な営業努力よりもマスコミに取り上げられることばかり考えている。
    店は遠藤が切り盛りしている状態であることが早い段階でわかる。

    この店で働く女性が、逃亡中の世間を騒がせた新興宗教の教育係であったことが
    一緒に逃げていた若者の自首によって明らかになる。
    店にはマスコミが押しかけ、取材を受ける中で
    突然店を辞めると言った女性に、遠藤が『退職金』として店の金を渡したこと、
    遠藤が以前ひき逃げ事件で人を死なせていたことが追及される。
    何も知らなかった野村は驚愕し、取材を切り上げて激しく遠藤を責める。
    そして二人は、互いの存在を否定するかのように罵倒し合う…。

    野村を演じた井澤崇行さん、俳優としてのプライドを捨て切れず
    中途半端にふらふらしている男が上手かった。
    後輩の活躍が面白くない辺り、子どもっぽくて逆に悪い人ではないと判る。

    遠藤役の秋枝直樹さん、“逃げた”ことをずっと後悔しながら生きている人が
    “逃げようとしている”女に金を渡す、観る者を緊張させる表情が良かった。

    チラシ配りの矢吹を演じた星耕介さん、前回の公演でも個性的な役だったが
    今回も見た目や言動のユニークさに反して
    極めて普通の感覚を持った人物がはまっていた。
    この人が演じる“ちょっと変わった人”にはブレない価値観が見えてすごいと思う。

    役者さんの名前が良く分からなくて申し訳ないが
    スナックのママを演じた女優さん、客に飲み物を作る背中が
    まさに“ママ”になっていて客商売の人を良く研究しているなあと感心した。

    ラスト、男二人の「三人姉妹」の台詞が良かっただけに
    女性3人による「三人姉妹」は無くても良かったような気がした。
    同じ台詞でもこの男二人が吐く台詞にはリアルな体験と時間の流れがある。
    劇中劇にはそれがなく、唐突な感じが否めない。

    誰の人生にも影を落とす何かがあって、それは一生晴れないのかもしれない。
    他人はもちろん時に自分自身も、それを受け入れることは難しい。
    あれほど激しく罵り合った野村と遠藤が、その後また一緒に仕事を続け
    野村が初めて白衣を着て後輩の役者をマッサージするシーンに少しほっとした。
    ずっと固唾をのんで観ていた私の肩もほぐれるような気持になった。

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    2013/07/31 04:02

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