遠くに行くことは許されない 公演情報 セロリの会 「遠くに行くことは許されない」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    いつか遠くに行くんだ!
    一緒に遊んでいた時に3歳のゆうちゃんが行方不明になるという
    強烈な喪失感と罪悪感を共有する5人は今もゆうちゃんを探し続けている。
    共有する仲間がいるということは“いつまでも忘れられない”ということだ。
    テンポの良い会話に笑いながらも、時に息を詰めて見守るような緊張感があり
    その危うい価値観の行方が最後まで惹きつける。
    シリアスな設定ながらキャラの立った登場人物による強引な展開が面白く
    これはやはり“人間の強さと弱さを描いたコメディ”だ。

    ネタバレBOX

    舞台は和風の居間、上手にソファ、下手には長方形の座卓が置かれている。
    ごはんの支度が整った座卓には、昔の“折りたたみ式はいちょう”がかぶせてあり
    時代と生活感がにじんでいる。

    暗転ののち、明るくなるとそこは花井家の朝の食卓で
    長男篤(尾方宣久)、次男宏(長瀬良嗣)、長女淑子(岩瀬ゆき映)と
    幼なじみの二人、愛(小林さやか)と千鶴子(菊池美里)がごはんを食べている。
    22年前の事件以来、母は体調を崩して伏せっており父は不在がちである。
    5人は今日もゆうちゃんを捜すため、張り切ってチラシを配りに行く。

    この花井家にやって来る人々には思惑がある。
    事件と家族を本のネタにしたい、篤の同級生だった新聞記者の久保(岡田美子)、
    篤の同僚で、篤に好意を寄せるパートの青木(遠藤友美賀)など。
    この二人が”世間代表”みたいな視点で絡んで来る。
    そしてある日ついに宏がゆうちゃんを連れて来る。
    上原優(平田裕香)というこの女性は本物のゆうちゃんなのか・・・?

    後悔の念からゆうちゃんが見つかるまでは幸せになってはいけないという
    暗黙のルール(時に言葉にさえして)に縛られる5人の人生は息苦しそうに見える。
    22年後に現われた“ゆうちゃん”の出現によって
    “ゆうちゃんさえ見つかればすべてが変わる、幸せになれる”と信じていた
    彼らの価値観は強制的に転換を余儀なくされる。

    優を“ゆうちゃん”と信じる姿は狂信的であり無理があり無茶苦茶である。
    だがそこに、そうしなければ22年間が無駄になるという怖ろしさや
    人生の折り返し地点で尚先の見えない不安に押しつぶされそうな心理が見える。
    淑子の、幸せになって家を出て行く人々への激しい攻撃は
    ゆうちゃんが見つかったらどうすればいいのかわからない
    絶望的にからっぽの自分を認めるのが怖くてならないからだ。
    “ゆうちゃんを探してあの日の5人が家族のように暮らすこと”
    それが永遠に続くことしか彼女には考えられない。

    この機を待っていた宏と愛は結婚のため花井家を出て行くが
    篤は優と心を通わせるものの、ついに一緒に家を出ることは出来なかった。
    篤の選択が切なくて、これで良かったのかと思わせる。
    優に「人のために生きている」と言われ、そこが似ているからこそ
    惹かれあった二人なのに、やはり遠くには行くことは許されないのか、許さないのか。

    無理やりな展開の中、役者陣がそうせずにはいられない心情を見せて素晴らしい。
    淑子役の岩瀬ゆき映さん、この人の人生このあとどうなるんだろうと思わせる。
    周囲を振りまわす自我の強さにものすごい説得力。
    篤役の尾方宣久さん、初めて優とそっと抱き合うところがとても良かった。
    無意識に人のために生きている篤が、唯一抑えがたい感情で動いたシーンが印象的。
    上原優役の平田裕香さん、とってもきれいな方でゆうちゃんにぴったり。
    こんな子にゆうちゃんが成長していたら…と皆の期待を一身に集めるような容姿。

    人は悲しみや後悔にすがって生きることもあるのだと改めて思う。
    解決したら途方にくれてしまうような、解決しない状態が幸せみたいな…。
    ラスト、2人減って篤・淑子・千鶴子の3人がごはんを食べるシーンにも
    相変わらずゆうちゃんのための陰膳が置かれている。
    20年後、40年後の淑子の側に、やはり篤はいるのだろうか。
    優と再会することはないのだろうか。
    いつか遠くへ行こうと決心する篤の変化が観たくなるような舞台だった。

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    2013/07/26 04:05

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  • うさぎライターさま

    ご来場頂き、誠にありがとうございました。
    素敵な感想、大変感動いたしました。

    この家族たちの各々が抱える「あの事件」に対する思いや距離感、
    また、そして心の変化など、細かい心情を表現できるように丁寧に作ってまいりました。
    それがお伝えできたようでうれしく思います!

    今後、残された花井家の3人はどうなっていくのだろう・・・、
    演じていた役者も常に気になっておりました。

    また、今後もセロリの会に足を運んでいただければ幸いです。
    ありがとうございました。

    2013/08/14 20:10

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