かなかぬち 公演情報 椿組「かなかぬち」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    土の上の芝居
    椿組、花園神社、野外劇と聞けばもう夏の風物詩、芝居の原点である。
    ここ数年、土の上で上演される芝居のエネルギーに圧倒されたくて通っているが
    今年は中上健次唯一の戯曲であり、火が不可欠な芝居ということで楽しみにしていた。
    凝ったセットもなく花園神社のゆるい起伏を活かした地の舞台スペースが
    奥行きのある山深い峠を見事に再現している。
    土の上では、役者の素の力が足元から立ち上がるようで本当に魅了される。

    ネタバレBOX

    入り口で団扇を受け取って客席に入ると、中上健次が愛した都はるみが流れている。
    衣装をつけた役者さんがビールやチューハイ、お茶などを売っている。
    夜になって涼しい風が吹き始め、思ったよりずっと快適だ。
    外波山文明さんが挨拶する声がもう嗄れ嗄れで、思わず笑ってしまう。

    舞台下手側手前には盗賊の頭とその妻が陣取る小高くなったスペースがあり
    その他は特にセットらしきものも無い。
    手前から奥に向かって緩やかに広がるフラットなスペースが広々としていて
    役者はまさに縦横無尽に駆け回る。
    奥にある3つの松明の灯りが舞台全体を生き生きと照らしていて
    上演中2度ほど黒子が火をついだのもリアルに感じられる。

    「かなかぬち」の「かぬち」とは金打ち、つまり鍛冶のことである。
    物語の中心である盗賊の頭(山本亨)は、後悔も反省もしない非情な男だ。
    彼は、身体が次第に鉄化していく異形の者でもある。
    腕や脚、胸などが鋼鉄の鎧のようになっていき、しかもひどく痛む。
    彼がさらって来た女(石田えり)は、今では彼を凌ぐほどに手下を引き連れて走り回るが
    痛みに苦しむ頭を労わる優しい一面もある。
    彼女がさらわれて置き去りにされた姉弟は、父の仇と母を探して旅をしている。
    この母子が思わぬ対面をして悲劇が起こる…。

    “異形の者”がぴったりの山本亨さん、相変わらず大きい男を演じると魅力的。
    強い男ほど女には弱い面をさらけ出すというギャップが立体的で
    自分の変化を受け入れてくれる女にすがる一面が際立った。

    石田えりさんさすがの貫禄で、さらわれて来たものの
    実は自分の中の“野生のような凶暴さ”に目覚めた女を楽しそうに演じていた。
    母性と女としての自分が混在する複雑なキャラが、ラスト怒涛の展開に説得力を持つ。

    旅回りの一座が唄ったり踊ったりしたが、今年はこのアンサンブルがとても充実している。
    音も良く、踊りもそろって、一人ひとりの役者の動きがきれいに出来上がっていた。

    中上健次の創り出すキャラは、自分を責めたり善い人ぶったりしない。
    子どもに対面して泣き出すような母親ではなく
    愛する女の亡骸をいつまでもかき抱く男でもない。
    その自己に忠実なところが魅力的だ。
    偽りの人生をおくって来た姉弟でさえ、最後は究極の選択をする。

    親の仇と狙う男と同じように、自分の身体も鉄化していくと気づいた弟が
    隠された親子の証である「かなかぬち」の身体を晒す所が良かった。
    ラスト、あっと驚くケレン味たっぷりの演出がまた芝居小屋の楽しさを思い出させてくれて
    今年も大満足の夏の芝居が終わった。

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    2013/07/17 02:05

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