獏、降る 公演情報 ハイバネカナタ「獏、降る」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★

    パワーと時代性
    街金が舞台のストーリーだが、昔のように追いつめられて借金するのではなく、
    後ろめたい目的のため、他に頼めないからから街金から借りるという理由にイマドキ感あり。
    キャラの立った登場人物がなかなか面白く楽しめた。
    もう少し観客の理解を助けるような台詞と表現方法があれば激共感だったかもしれない。
    客入れの時から流れるアニソンの数々が懐かしく(年がばれる…)
    劇中の選曲もセンスが感じられて好き。

    ネタバレBOX

    高田馬場の街金ハイテンションファイナンスには様々な人がやって来る。
    一度会った風俗嬢が忘れられずにあちこちの風俗に通う男、
    政治家の母の元で自分探し中に、地域振興をテーマに映画を撮ることになった男、
    仕事がないのは顔のせいと整形手術をくり返す女優等々。

    社長の鳴海(服部紘二)は神様(客)に対する取り立ても厳しい。
    新入社員のノア(村上寿子)は施設育ちで、
    金を借りに来る人の不幸を見ては無意識に笑ってしまう所がある。
    “自分は不幸だ”という彼女の自意識を、社長は「そんなの普通だ」と嗤い飛ばす。

    金を借りに来る人々が次第に身動きとれなくなって借金を重ねる中、
    風俗に通う男が社長を刺して殺してしまう。
    ノアが忘れたいことをほじくり返すようにつきまとう施設の先生だった男の目的、
    そして社長を殺した犯人も実は同じ施設育ちだったことがわかる…。

    自分は不幸だという意識には他人の目が働いている。
    自分自身の価値基準ではなく、“人が見たらこんな人生悲惨で可哀そうだろう”
    という視点で自分を見るからいつまでたっても抜け出せない。
    社長が「お前の人生そんなの普通だ」「俺はお前が嫌いだ」と言ったのは
    狭い自意識の中で自分を憐れんで生きているノアを嗤ったのだと思う。
    他人の不幸を笑って自分の不幸の穴埋めをする生き方は、実はとても惨めだ。
    この社長、どんな人生を送ってきてこういう言動に至ったのか興味がわく。
    社長のバックグラウンドが語られたらもっと魅力的な人物になったと思う。
    彼の論理がもう少しわかりやすく語られたら
    あの嗤いに私ももっと共感できたような気がする。

    主役のノアは、最初世間に埋もれて自分の存在を消したいかのように地味だったが
    後半一気に爆発した時、そこで激しい心情説明にわかりやしさが欲しかった。
    下を向いての長台詞や怒鳴るような台詞は共感のチャンスを削ぐようでもったいない。

    地元の議員小泉キョウコを演じた中村まゆみさん、
    振り切れた演技に隙がなくて、強烈なキャラが素晴らしく面白かった。

    セットが家庭の居間みたいでオフィスらしくなかったのがちょっと違和感。
    風俗男の家とか小泉キョウコの家、路上など場面が変わることが多いので
    良く出来ているのだが、設定として中途半端な印象を受けた。
    また後半ファイルや雑誌が床に散らばる演出は必要だったのか疑問に感じた。
    出演者も、よけるか踏むか皆迷いながら歩いているように見えた。

    BGMに関しては、客入れの時から楽しかったし劇中の選曲も好み。
    シーンが重なるようなスピーディーな出ハケとか、全員によるダンス(?)など
    全体にパワーと勢いの感じられる舞台だった。
    終盤社長の骨壷から灰を掴んで振り撒くシーンにノアの開放が暗示されていて良かった。
    キャラの設定や他人の評価が自分を決定づけるというテーマに時代性を感じる。
    登場人物の言葉が観客にもっと伝わる工夫があればさらに面白くなったと思う。

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    2013/07/16 01:05

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