満足度★★★★★
愚直な純粋さ
カーテンコールを終え、客電が点くと隣の席の人が言った。
「観に来てよかった」。
私も素直にそう思った。
舞台の幕開けから登場人物たちは狂いに狂っていて、それでいて愛に満ちている。
これが長谷川くんが表現したかった「純愛」というものなのだろうか。
終演後、何も言葉が出てこなかった。
それだけ今回のこのお芝居の持っていたパワーは並大抵のものではなかったし、それに圧倒されて言葉を失ったのは客席に私だけではなかったはずだ。
物語のテーマは大きく三つ。
「障碍を持った妹への歪んだ愛情」。
「日本の社会へのアイロニー」。
「日本人の脆弱な集団ヒステリック」。
この三つを中心に登場人物たちは右往左往する。
学生が行うお芝居で、愛だとか死だとかをテーマにすると往々にしてクサかったり、言いすぎたりするが今回はそうではなかった。
むしろ通俗的な観念をすべて無視して、長谷川くんの持っている現代社会に対する怒りを舞台の上で振りまわした、という感覚が非常に強い。
長谷川くんはこの作品で「キレて」いた。
確実にブチギレていた。
彼のこの不器用な感情のパトスが舞台に散らかるぬいぐるみとおしゃれな衣装、後半登場人物が狂いはじめるとかわる背景でコーティングされたカオスがアンバランスなはずなのに不思議な調和をなしていて可愛いのだか怖いのだかわからない不気味な世界を作り上げていた。
しかし彼は深い部分で自分を隠そうとしているのが見えた。それが照れなのか、恐怖なのか。もっと自分を出して、より破壊的により鋭い感性を爆発させて欲しい。
長谷川くん!君ははやく自分の世界観を何も言わずに共有してくれる素敵な仲間を見つけなよ。その人ともっともっともがいて自分の作品を鋭利にするんだ。
それから彼女はパンフレットに募集をかけても見つからないよ。自分で口説くんだ。
今後も楽しみなロリポップチキンだ!