Call me Call you 公演情報 劇団6番シード「Call me Call you」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    信じてもらう仕事
    あのトレーラー、本物じゃないの?
    道路を走ったりしないの?
    って今でも思っちゃうくらいリアルなトレーラーが素晴らしい。
    その内部が立てこもり事件の交渉ブース、という設定がまた面白い。
    見た目のインパクトと自由な発想の演出・美術に対して
    人の心理を突いた脚本は手堅く安定感抜群。
    宇田川美樹さんの豊かな表現力で、交渉人の婆さんが実に魅力的だった。
    「誰も信じない」犯人に「信じてもらう」ことが交渉人の仕事なら、まさに天職の人だろう。
    そしてもう一人、立てこもり犯の青年を演じた藤堂瞬さん、
    電話の声だけでこれだけ惹きつける人が、どんな風に舞台に登場するのだろうと思ったら
    素晴らしく繊細な表情で振り向き、交渉人と最後に顔を合わせるシーンには
    予想していた場面にもかかわらず思わず涙がこぼれた。
                                       

    ネタバレBOX

    雑居ビルの中にあるダンススクールで立てこもり事件が発生する。
    犯人はスクールの生徒4人と講師を人質に立てこもり、
    「ダミー」と名乗って警察に電話をかけて来た。
    県警捜査一課とSIT(特殊捜査部隊)、それにプロファイラーが指揮権を争う中、
    新たな人物が派遣されてくる。
    生活安全課(少年係?)の遠山弥生(宇田川美樹)である。
    小学校の同級生だった県警本部長の命令で拉致されて来たという遠山は
    スーパーの袋を両手に提げた関西のオバちゃんみたいなキャラだ。
    一同の冷たい視線を気にも留めず、犯人からの電話に出たりすぐ切っちゃったり…。
    しかし確実に犯人情報につながる彼女のアプローチは次第に事件の核心に迫って行く。

    舞台いっぱいに置かれたリアルなトレーラーが素晴らしい。
    タイヤやホイールの質感、重量感などあまりの出来の良さに目が釘付け。
    ここを交渉ブースとして犯人とのやり取りが繰り広げられる。
    また冒頭からSITの制服がカッコ良くて惹きつけられる。
    良く訓練されたスピードとキレのある動き、滑舌のよい早口で緊張感ありまくり。
    6番シードお得意の分野だと思われるがそれにしても、観ていて気持ちが良い。

    遠山弥生のとぼけたようでいて計算された話術、根底にある温かい人柄が魅力的。
    宇田川美樹さんはいたずらに老けたしゃべりはしないが、キャラを活かし
    テンポや語尾などに工夫があって、長丁場を隙なく“老婆”になり切った。
    犯人に電話をかけるよう指示する「コール!」という台詞、
    犯人に呼びかける「大丈夫よ」という台詞、
    共に何度も繰り返されるが、その都度色合いが変わり微妙に変化する。
    その繊細な変化から遠山の誠実さと事態の緊迫感が伝わってくる。

    立てこもり犯を演じた藤堂瞬さん、
    少しの障害があることでいじめられ、ひきこもりになって
    社会や人と上手く繋がれない孤独な青年を、ずっと声だけで演じて来た。
    思いこみが激しく、人の真意を計ることも、人を見る目も無かったこの青年が
    この結果にどれほど傷ついたかしれないが、遠山の存在が救いだった事は確か。
    ラスト、逮捕されて初めて舞台に登場し
    遠山とすれ違ったときの表情が素晴らしかった。
    私はこれで、藤堂さんのファンになりました…。
    6番シードらしいスローモーションの演出が、たっぷりドラマチックで良かった。
    わかってたシーンなのに、涙が止まらない。

    千秋楽のこの日はいつまでも拍手が鳴りやまず、トリプルコールとなった。
    6番シード、脚本・演出・役者、それにスタッフがそろった素晴らしい劇団だと思う。
    これからも毎回斬新な舞台を観せてください。

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    2013/07/04 01:17

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