兄よ、宇宙へ帰れ。【ご来場ありがとうございました!】 公演情報 バジリコFバジオ「兄よ、宇宙へ帰れ。【ご来場ありがとうございました!】」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    脳天気ではない演劇LOVEで、自己再生
    (前説からきちんと見たほうがいい劇団だ)

    バジリコFバジオは、かつてのジェットコースターのような展開、いい意味での、力任せの勢いで突き進むだけの劇団ではなくなったように思う。
    もちろんそれも大好きだったが。

    ネタバレBOX

    特に『愛と平和。』あたりから「物語」をきちんと描き、届けることにシフトしてきたように思える。
    前作『ねぼすけさん』ではそれを強く感じた。

    今回もその路線にありつつも、勢いではなく、リズムを感じる演出で、物語を見せていく。

    根底にあるのは、どーしようもないくらいの、演劇へのポジティヴ感。
    舞台の上で、言い切ってくれる、脳天気ではない演劇LOVE。
    結成10周年にそれを力強く、高らかに示した。
    演劇を信じているのだ。自分たちのやっていることを信じている。
    それは心強い。

    物語は、劇団を主宰し、10年やっている砂城が、観客の評判と劇団内部の人間関係から劇団が崩壊してしまうことで、挫折して、演劇を辞めるところから始まる。

    「前のほうが良かった」「前のほうが面白かった」という声は、どの劇団の人も一度以上は耳にしたことがあるのではないだろうか。

    先に書いたとおりバジリコFバジオでも、そんな声を、なんとなく変化のあった『愛と平和。』あたりから耳にしたり、アンケートで目にしたりしたのではないかと思う。劇団内の人間関係は知らないけど(笑)、実体験的なところもあるのではないだろうか。
    あるいはどこかの知り合いの劇団で、そういう危機に陥ったところがあったのかもしれない。

    その後、彼がいかに再生していくかという物語となるわけなのだが、ここにひとつの仕掛けがある。
    それは、彼の過去の作品が現実に漏れ出してしまっている、ということだ。

    彼が派遣会社に行くと現実味のない職種ばかりを勧められたり、また、高校時代の演劇部仲間に出会ったりするのも、「彼の物語」の中だから必然であるのだ。
    現実と彼から漏れ出してしまった虚構が混ざり合い、彼の物語となっていく。

    世界だけでなく、彼もその渦中の人となる。

    よく「正解は自分の中にあるのだよ」的なことを、カウンセラーが言ったりするが、まさにそれが、この舞台上の世界なのだ。
    彼が欲しているのは、捨てたはずの「演劇」であり、彼はそれを無意識の中で、引き寄せているのだ。だから、彼の過去の作品たちが、彼の物語を再構築していく。タスマニアタイガーとか謎の男とかが、その水先案内になる。

    砂城が書いた高校時代の演劇を、15年も経った今も覚えている海辺啄郎という存在なんて、まさに砂城自身が望んでいるキャラクターではないだろうか。砂城が自信を取り戻すためのキャラクターだ。

    つまり、すべてが彼の生み出した虚構(戯曲)の中のことだ、と言っていい。
    劇中劇のように演じられる彼の劇団の舞台、ラストにまたそれを、別の役者が演じるところ、それがすべてを物語っているように思える(彼の劇団の舞台の演出が、いかにも小劇場的なところはなかなかいい感じ)。

    結局、例の大きなロボットが使徒と戦うアニメ的に言えば、砂城は、自分で自分の補完計画をやった、というところではないだろうか。

    砂城は演劇を始め、物語は観客にゆだねられたのだ。

    啄郎と岬は、演じることで、物語から解き放たれて、フリー・スペースに旅立った、というのはいろいろと当てはめすぎだろうか。

    登場人物の役名が、すべて「海」つながりであったのは「宇宙」との関係なのかな、と少し思った。

    三枝貴志さん、武田諭さんは、やっぱうまい。
    特に三枝貴志さんは、時折見せる「地」っぽい演技で、観客との接点を確認しつつ、物語を進め、武田諭さんの啄郎の感情の変化と行動とのリンクがいいのだ。
    木下実香さん作の人形もいい。アクの強さが、人間に決して負けない。

    バジリコFバジオは、やはり大好きな劇団だ。

    劇場では過去の人形を販売していたが、帰りに、と思っていたのだが、うっかり買い忘れてしまって、残念無念である。

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    2013/06/01 21:47

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