これでおわりではない 公演情報 アンティークス「これでおわりではない」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    昭和な家族
    まったく人生は思い通りにならないものだ。
    大事なものほど、ある日突然根こそぎ奪われてしまう。
    場面転換の工夫によるスピーディーな展開と時間軸の移動で、
    主人公の悲痛な心情が(ありきたりな叫び声や号泣でなく)浮き彫りになる。
    彼女の兄が実に魅力的。

    ネタバレBOX

    横浜の小学校3年生の岬(つのだときこ)は、家族旅行の帰りの事故で
    父母と兄、妹をいっぺんに失い祖母に育てられる。
    高校卒業後は東京で働き、32歳にして念願の大学へ入学、学生生活を楽しんでいる。
    そんなある日、街で死んだ兄そっくりな男に出会い、驚愕する。
    男は岬をなつかしい横浜の家に連れて帰る…。

    どうしても山田太一の「異人たちとの夏」を思い出してしまう。
    設定はもちろん、父(家田三成)や母(高森愛花)のキャラに共通点があるからだが、
    人物像の彫りが深く役者陣の実力が感じられる。
    家田さんの台詞にリアルな昭和の香りがあって、いいお父さんだなと思わせる。

    印象的なのは兄。
    演じる誉田靖敬さんの視線が常に“演技”している。
    自分たちがすでに死んでいることを意識しながら、生き残った妹を思いやる
    “境界線上の複雑な”立場と思いが伝わってくる。
    不器用だがケンカにも強い、頼もしいお兄ちゃんが素晴らしい。

    お兄ちゃんと昔デートした同級生(本城明子)と観覧車に乗るシーン、
    本城さんのカタさが上手く作用して口下手な初デートの雰囲気が初々しい。

    “見たいものしか見たくない”岬の心が生んだ実在しない世界。
    しかしそれが、この先岬を支える何よりのよすがとなるだろうということが
    明確に伝わって来て、泣かせる別れのシーンの後は清々しい。

    ちょっとラスト引っ張り過ぎかなとも感じたが
    花札のシーンで終わるのは良かったと思う。
    岬の幼い妹澪の声が飛びぬけてボリュームが大きく、少し違和感を覚えた。
    演出の指示かもしれないけれどほかの声が落ち着いて聴きやすいので
    バランスが崩れるような気がした。

    現実世界と仮想世界、大学生活と小学生時代、
    それらが重なって何度も行き来する構造ながら
    スピーディーな場面転換もあって一気に魅せる。
    「これでおわりではない」ということが、孤独な人の心を支える。
    それをしみじみと感じさせる舞台だった。

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    2013/05/31 04:44

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