いやむしろわすれて草 公演情報 こどもの城 青山円形劇場/ネルケプランニング「いやむしろわすれて草」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    素晴らしい脚本(構成)・演出・演技。
    日常会話をとてもうまく構成していて、なんでもないような会話が極めて精緻に伏線となって張り巡らされている。

    演出では、「間(ま)」の使い方が絶妙。

    主演の満島ひかりさんもそうだが、他の役者さんも、全員素晴らしい演技。

    ネタバレBOX

    死、それは生の問題。
    人はそれぞれに何らかの条件を背負いながら生きている。
    その条件から解放されて生きることは不可能だ。

    それは主人公:三樹の病気もそうだし、
    その病気の妹を持つ2人姉・姉を持つ妹、父、、、、、
    様々な条件を背負いながら、一人一人が生きている。
    観客である私たちも。

    父が病気で倒れたと同時に、家業の八百屋を辞めざるを得なかったという会話の中での、二女・三女(主人公)の台詞が印象的だ。

    新山タカシ:「でもおじさんはショックだったと思うよ」
    三女:「そりゃそうでしょ、必死だったもん」
    四女:「必死に野菜売ってたからね」
    二女:「まあ、どの職業も割と必死だよ」
    三女:「全体的にみんな必死だよ」

    それぞれの条件の中で皆必死なのだ。

    また、ラストのひとつ前のシーン「四女と三女(主人公)との会話」も印象的。
    主人公・三樹が退院したら、家を父と三樹だけにはしておけない。その為に、長女は結婚をしない、二女も家に戻ってこようかと言いだしているという話を受けて、主人公:三樹は「でも、そういうの困るんだよな」「そういう、自分を犠牲にしてる感じとか、」と言う。
    それに対しての四女の台詞。

    四女:「でも、それはしょうがないでしょ、、、 私だって、」
    三女:「、、春菜は東京いきな、行きたいんでしょ」
    四女:「別に、行きたいって程じゃないよ」
    三女:「でも好きにして欲しいの」
    四女:「、、」
    三女:「、、ふーちゃんも一美ちゃんも」
    四女:「そうは行かないでしょ」
    三女:「、、」

    「そうは行かない」という制約は人生のすべてに当てはまる。
    勿論、その前の三女の「好きにして欲しい」という言葉は、自分自身が病気という制約に縛られ続けて生きてきたが故に、
    姉妹にはそういう制約をできるだけ抱えてほしくないと考えての言葉だ。

    だから、タイトルは「いやむしろわすれて草」。(「わすれな草」に対してだろう)

    そして、次のシーンで、もう病状が厳しい主人公唯一の病院内での友達・伊藤夕子が最後に送ってくれた、夕子の好きな花の名前を三樹は忘れてしまっている。
    ちなみに、それ以前のシーンで、好きな花がその花なのかはわからないが、物語に出てきた花は、橘。花言葉は追憶(←ネット情報で裏はとってません)


    そして、ラストシーン。
    ボウリング場に家族で行こうとするも、主人公:三樹はかたくなに行きたくないわめく回想シーンで終わる。
    ボウリング場は、三樹が初めて男性とデートをし、男性から告白された場所だ。だが、タカちゃんのことを好きだったからという理由もあるかもしれないが、その後、すぐに入院してしまったせいで、それで終わってしまった関係。
    (そのボーリング場ももはや存在しない)
    ただし、時間軸も、はっきりと明示されていないので、デートをする以前の時間設定の可能性もあり、三樹が行きたくないという理由が、その男性との記憶のせいなのかどうかははっきりしない。
    その辺の解釈が開かれているところもとても良い。
    この作品は、観た人の数だけの解釈があると思う。
    特にラストシーンの意味は、捉え方によって様々だ。

    私にとっては、人生の背負う制約や条件という問題を受け取っていたので、そういう見方をした。

    そして、それを受けて、考えた。
    どんな人でも、様々な制約や条件の中で生きている。その中で判断している。だが、人は自分のことはそれでいつも悩んでいるのに、他人にも色々な制約や条件があるのだということを、つい忘れがちである。すぐに、自分の価値観を元に、相手が置かれていることなどお構いなしに、正義を押しつけてしまう。正義という暴力を。
    だが、これも難しい。その論理を突き詰めると、すべては相対的なのだから、他人の批判なんかするなという意見にまでなってしまう。それも、また別の暴力。

    難しいが、、、置かれた状況で、自分なりに最良だと思える選択をするしかないのだな。

    作品評からズレてしまいました。


    時間軸が入れ換わる演出も絶妙だった。

    素晴らしい作品でした。ありがとうございました。

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    2013/05/21 23:21

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