既成事実 公演情報 小西耕一 ひとり芝居「既成事実」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    性悪女と自滅男
    第一回公演「中野坂上の変」では複数の作家の短編をひとりで演じたが
    今回は自身が書き下ろした作品をひとりで演じるというもの。
    ちょっと行き過ぎた男の転落の様が鮮やかで
    相変わらず台詞の力を感じさせる舞台だった。
    展開の面白さに加えて、彼を取り巻く全てが凝縮された怒涛の後半が素晴らしい。

    ネタバレBOX

    みよちゃんの浮気はもう14回目だが、タケシはまたも許してしまう。
    ただし「消毒」と称して浮気の一部始終をベッドで再現する。
    これをしないと気が済まない。
    だが今回は職場の佐々木先輩に愚痴ったことから
    先輩と二人浮気相手の男の店へ顔を見に行く羽目になる。
    そして泥酔して二人はホテルに行くのだが
    タケシは行為の最中、佐々木先輩の首を絞めて死なせてしまう。
    そして死体はバラバラにして生ごみの日に出す。

    ある日タケシはみよちゃんが自分以外の男の子どもを妊娠したと知って激高、
    一度は彼女と別れるが、思い直してその子の父親になろうと決心する。
    その時遠くでパトカーのサイレンが鳴り、それは次第に近づいて来た…。

    タケシはみよちゃんが大好きで、一緒にいられるなら何でも許す。
    殺人を犯したことさえ、彼にとっては失敗でも大問題でもない。
    ちょっとびっくりしたけどたぶんバレないし、それより問題はみよちゃんの妊娠だ。

    タケシの極端な価値観の傾き方、誇張はあるが良く見かけるタイプだ。
    顔に痣のある自分を好きだと言ってくれたみよちゃんを失いたくないあまり
    “既成事実”を“消毒”して無かった事にする。
    この自己満足なリセットの儀式が効いている。
    こういうちょっと“ドン引きキャラ”にもかかわらず
    いつのまにか感情移入させてしまう所がすごい。

    父親が実の親ではなかったことを思春期に知り、
    その後ずっとぎくしゃくしていたという背景も巧みに織り込まれている。
    パトカーのサイレン音がマックスになる中、
    「お父さん、自分の子でない子どもを育てるってどんな感じ?」(という意味の台詞)
    で直後に暗転するが、因果の巡りを感じさせる終わり方だ。

    ひとり芝居のポイントは、“見えない登場人物がどこまで視えるか”だと思う。
    一見無邪気、実はしたたかなみよちゃんが生き生きと立ち上がって来るのは
    小西さんの「リアルな台詞」と「間の巧さ」だ。
    日頃彼のブログを読んでいても、興味をそらさない文章の巧さに感心する。
    殺人を犯してからの転落は(タケシは転落だと思っていないが)
    台詞に変化とメリハリがありまさに怒涛の展開、テンポ良く鮮やかだが、
    前半そこへ行くまでがちょっと長く感じられたかな。

    このひとり芝居シリーズ、早くも次回9月の公演タイトルが発表になっている。
    「既成事実」の次は「破滅志向」だそうで、
    わかっていながら「地雷」を踏み続ける小西耕一という役者の
    執拗かつあっけらかんとした自虐志向が楽しみだ。

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    2013/05/18 03:27

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