ひろさきのあゆみ~一人芝居版 公演情報 渡辺源四郎商店「ひろさきのあゆみ~一人芝居版」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    「最後の一歩!」
    パンフレットにあるように
    「オトナだからと言って高校生より面白いモノが作れるとは限りません。
    高校生に高校生の情熱と可能性があるように、オトナにはオトナの意地と知恵があります」
    そのために、「オトナの俳優が演じるだけでなくオトナの演出を加えた」としている。

    柴幸男さん作の「あゆみ」はひとりの女性の一生を10人で描く演出で、
    畑澤聖悟さんはそれを高校生向けに潤色、8人で演じた。
    今回工藤千夏さんはそれを大人の一人芝居に仕立てている。
    若い世代から見た“女の一生”を、成熟した女性が演じるとどうなるのか。

    ネタバレBOX

    舞台中央には、開演前から女性が座っていて足に赤いペディキュアを施している。
    様々な物が彼女をぐるりと取り囲むように円を描いて並んでいる。
    靴、傘、ランドセル、サンダル、どれも鮮やかな赤い色である。
    小さな椅子や犬のぬいぐるみ、一足だけ白い靴。
    これらの小物を使って、幼児から老婆までのあゆみを淡々と描いていく。

    「最初の一歩!」で始まったあゆみという女性の人生は
    「最後の一歩!」という台詞で舞台は暗転、人生を終える。

    人生は終わりへと向かう“あゆみ”だというこの舞台は
    高校生の告白とか、社内恋愛、出産、親の死など
    オトナが見れば淡々として平凡な出来事の連続かもしれない。
    10代の若者が必死に想像して演じていたこのストーリーを
    工藤由佳子さんは“経験者”として演じる。
    私は元の「あゆみ」を観ていないので比較が出来ないけれど
    舞台には、この経験値の差が出ていたのではないか。

    幼児期や小学生のころを演じたのには若干無理が感じられたが
    社会に出て社内恋愛、交際、結婚と進むあたりから
    俄然生き生きとして、台詞と動きがなめらかになった。
    日頃、屈折した色気のある役を繊細に演じる素晴らしい役者さんなので
    あまりにストレートな類型的キャラクターでは物足りなく感じてしまう。
    それでも、親の死を告げられた時とか、晩年の車いすのシーンなど
    じっとしているだけの芝居に思わず涙がこぼれた。
    演出の斬新さを排した分、深みが増していると感じた。

    青森公演では音喜多咲子さんのバージョンもあったという一人芝居、
    こちらも観てみたかったなあと思う。
    “未経験なのに知ったような顔をする女の子”をやらせたら天下一品の音喜多さんは
    どんなあゆみを演じたのだろうか。

    力のある脚本は、いろいろな演出が可能になると知った舞台だった。
    「最後の一歩!」という台詞に、作家のピュアで強いスピリッツを感じる。
    経験こそなくても、はじけるような若さが跳ねる舞台もまた素晴らしいだろうなあと思った。

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    2013/05/06 04:02

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