満足度★★★★★
早船色は健在
他の劇団のために書き下ろした作品だということで、何か制約を感じるかと危惧しましたが、全く変わらず、早船さんの、人間を優しく見つめる視点が利いている素敵な作品でした。
ただ、チラシの文章から受ける印象とは大分違う作品でした。チラシの雰囲気では、イキウメ的かと思いましたが、いつもながらの、どこにでもいそうな人物の、市井の出来事の断面を切り取ったような、スケッチ風の佳品。
登場人物全員の描き方が実に細やかで、これで、1時間半で、完結できる、早船さんの作家としての力量に、またしても、感嘆しました。
他への書き下ろしのせいか、伊藤さんや佐野さんの役柄が、いつもと違って新鮮でした。
客演の野々村さんの、確固たる存在感。一色さんの、まさかの声の説得力。
普通の主婦に見えたともさとさんの女の色気。明るく見えて、自らの性癖的性格に悩む和泉役の山下さんの健気さ。佐藤さんの、いつもながらの、安定感。伊藤さんも、謎めいた男の憂愁美が素敵ですが、ちょっと台詞が聞き取り辛かったのは残念でした。
役者さんは、皆さん、魅力的でしたが、中でも、いつもの役柄のイメージと違う、普通の人の好い男を好演された佐野さんの実在感には、感服しました。
個々の役者さんの体を通して、実在するかのような人物が生き生きと躍動する舞台に、何故か、嬉し涙がそっとこぼれました。
どんな有名な劇作家でも、これだけ、丁寧に、登場人物一人一人に光を当てて丁寧に命を吹き込める作家は、早船さんを置いて他に見当たらないという気さえします。何しろ、話にしか出てこない人物や、死者までが、生き生きと躍動してるんだもの。