満足度★★★
タイトルの「アンティゴネー」とは何か?
ニライは,聡明で美しい娘で,すでに,恋人のウミンがいた。ニライには,言語障害があるが,素直で心の美しい妹カナイがいたが,実は,ひそかに,姉の恋人に思いを寄せていた。あるとき,ニライは,基地の連中に襲われてしまった。
ニライの父と,ウミンの父は,町では実力者でかつては,親友でもあったが,基地問題などを背景に,険悪な関係になっていた。このため,ニライと,ウミンは,ぼくたちは,ロミオとジュリエットのようなものだね,と笑っていたこともあった。
ニライの父は,かつて苦悩の大きさゆえに,自分で自分の目をつぶして,これ以上世の中の醜さを見たくない!と宣言していたが,その時の真意は,十分には明らかにされてこなかった。
物語の中で次第に明らかにされるのだが,ニライの父は,戦後ニライの祖父と大きな言い争いをしている。祖父は,戦後も教育者を辞めず,校長をやっていた。そのような祖父に,父は,「戦場に子どもを送り出し,自分ばかりがのうのうと生き残って・・・」と呟いてしまう。結果,あるとき,祖父は,首をつってしまったのだ。
ということは,みな,ニライの父は,親友に裏切られたゆえに,あるいは,些細なことで,実の父親を自殺においやった自責の念で,自暴自棄になったのか?
いや,問題は,そのような表面的なことではなく,もっとドロドロとした奥深いものが隠されていたのである。ニライの父は,この親友をかつて裏切り,彼の妻と不倫関係にあった時期がある。そこで,できた子どもは,ずっと,その事実を隠して成人してしまったのだ。それが,ウミンなのだ。そう!つまり,ニライ・カナイ姉妹は,ウミンと兄弟であったというのだ。
昨年10月,両国のシアターXで,琉歌アンティゴネーは,良かった。これは,沖縄基地問題。ここで,ヒロインのカナンは,血のつながった兄を恋してしまう。さらに,基地でアメリカ兵に犯されてしまう。広いとはいえない劇場には,砂浜をイメージした舞台で,沖縄特有のダンスがある度結構なほこりが舞っていた。で,タイトルの「アンティゴネー」とは何か?
「アンティゴネー」は,ギリシア悲劇で出て来る女性の名前。
テーバイには,ラーイオス王とイオカステー王女がいたが,神の啓示により子どもを作るとろくなころがない!といわれる。ラーイオス王は,これを無視して,できた子どもをしぶしぶ,かかとに目印で傷をつけ,森で捨てるが,これを情のある羊飼い夫婦が育てる。
ときが過ぎ,オイディプース(かかとが腫れた)は,森を通り過ぎた乱暴狼藉の老人を殺害してしまう。彼は,オイディプースの愛馬を,道のじゃまだからというだけで引き殺してしまったからだ。しかし,このときオイディプースは,この老人が父親であったことを知らない。さらに,テーバイにもどって,功績を認められ国王の妻と婚姻し,王にのしあがるが,実は,この女は母親であったのだ。
そして,彼らの間にできた呪われた子どもたちの中に,「アンティゴネー」の名がある。