秘を以て成立とす 公演情報 KAKUTA「秘を以て成立とす」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    「涙を以て…」
    ドラマチックな設定で描かれる「秘すべきこと」をめぐる人々の優しさ。
    でもそれは辛くて哀しい優しさだ。
    役者陣の充実と緩急の効いた演出、説得力ある台詞が素晴らしい。
    最後は「涙を以て成立とす」であった。

    ネタバレBOX

    舞台いっぱいに二つの部屋が作られている。
    下手は守田クリニックの待合室、上手は守田家の二階建住居スペースと庭。
    院長の晋太郎(吉見一豊)、妻の津弥子(藤本喜久子)、看護師の孝枝(原扶貴子)の他
    同居する晋太郎の弟庸一(佐賀野雅和)のほかさらに奇妙な男たちが存在している。
    足の悪い凶暴な大工ハリオ(清水宏)と、テキパキ仕事をこなす医師赤城(成清正紀)だ。
    時々小学生の少女(ヨウラマキ)が庭先に現われて晋太郎と会話したりもする。

    これは私の好きな精神疾患もの、それも「多重人格」を扱った作品である。
    “小学生の時に事故で姉を死なせた、助けられなかった”ことで自分を許せない晋太郎。
    一時現われなくなった人格は、妻とのすれ違いをきっかけに再び現われるようになる。

    この「多重人格」が医学的に正確かどうかとか、ドラマチック過ぎる病気だとか、
    ツッコミどころはあるだろうが、そういうことがどうでもよくなってしまうのは
    深く病んでいる晋太郎とそれを見守る人々の心情が超リアルに描かれているからだ。
    終盤「お姉ちゃん、ごめんなさい!」と泣きじゃくりながら叫ぶ晋太郎、
    「こんな病気の自分はもう駄目だから離婚してくれ」と妻に泣きながら訴える晋太郎の、
    客席まで満たすものすごい緊張感。
    自分を否定しながら生きて来た苦悩が伝わって来て涙が止まらなかった。
    誰も助けてくれないから別の人格を作り出すしかなかった、
    そうしなければ生きることができなかったというのは何と孤独な人生だろう。

    この舞台のもうひとつのテーマは、
    「怖くて聞けないことこそ、聞かなければならないこと」だと思う。
    晋太郎がどこまで多重人格を自覚しているかを確かめることができない津弥子も、
    お腹の子の父親に妊娠を告げられない有名ブロガー(高山奈央子)も
    みな何かを怖れて聞くことができずにいる。
    まさに「秘を以て成立」するあやうい人間関係を、壊れ物のように扱っている。

    ラスト、晋太郎はトラウマから脱却しようとするかのように
    「やっぱり走ろうかな」と言ってマラソン大会に戻る。
    姉が死んだあの日もマラソン大会だったのだ。
    津弥子に「一緒にそこまで走らないか」と声をかけ、二人は走り出す。

    多重人格それぞれをはじめ、隙の無い役者陣が明確なキャラを活き活きと演じていて素晴らしい。
    銀子役の桑原裕子さん、ちょっと頭の足りない銀子を演じて大いに笑わせたが
    素直な台詞に力があって説得力抜群。
    超シリアスな話なのに、ところどころで抜けた笑いを誘う、この緩急が本当に効いていると思う。

    晋太郎の過去と現在を照明によって切り替える演出、
    それぞれの人格が暴れたり活躍したりした同じ場面を
    今度は晋太郎一人が演じて事実を再現する演出などが上手いと思った。

    「秘を以て成立」とする関係は危ういし苦しい。
    晋太郎も津弥子も「開を以て成立」させることで一歩踏み出した。
    相変わらず人格は現われるが、二人には彼らと共存していく覚悟ができたように見えた。

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    2013/03/08 03:42

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