満足度★★★★★
やさしさに泣くとは
いわゆるお涙ちょうだいや、笑いには飽食しているが、やはり客はそれを求めてもいる。泣かせてほしい、笑わせてほしいけど、もうレベル高いですよぉ~そう簡単にはやられませんよぉ~という時代。と、どこかの演出の人が言ってたよな。
パンフレットのあいさつにもあったが、今作品には腹筋善之介の死生観が織り込まれているようだ。
これまで肉体表現はシャープさにこだわっていたようだが、今回はそこにほほえましいやわらかさとやさしさを盛り込み、まるで草原の中で踊るような、今までにない新表現が加わった。それは思うに腹筋善之介の、死がぽかぽかと陽気で明るいものであってほしいという願いを体現したものではなかろうか。このモチーフの繰り返しが、作品全体の重いテーマをやわらげ包み込む。
ところが、この明るさに、やさしさに泣いてしまった。笑顔にやられた。おおらかなあたたかさがどうにも切なく胸をついた。経験したことがない涙。もしかしたら核ではなくて飾りとしての演出なのかもしれないが、これがよく効いている。
もっとも適切な悲しみや切なさの表現は、その対極を演じてなおそれを客に感じさせることだと思い知らされたのは、個人的には野田秀樹の「桜の森の満開の下」以来か。例え、古いか。いや、それほどにむずかしい表現術に果敢に挑戦している。