漂着種子 公演情報 猫の会「漂着種子」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    流れ着いた種子
    八丈島を舞台に、本土からやってきた小学校教師と画家を目指す女性の恋。
    悲劇に向かって少しずつ傾き始めた運命は、ある日一気に坂を転げ落ちる。
    終盤、主人公ちどりの台詞にどきどきするほど緊張した。
    雷鳴と共に、あの場面が忘れられない。

    ネタバレBOX

    舞台は八丈島、画家を目指すちどり(高木充子)の部屋。
    少し雑然としているが、波の音が聴こえ
    窓から今は無人の故郷、八丈小島が臨める部屋である。
    ちどりは三姉妹の末っ子で、すぐ上の姉かや(小林梨恵)と
    その夫誠(佐藤達)夫婦は母屋に住んでいる。
    元は物置だった離れを改装してアトリエとし、ちどりはここで寝起きしている。
    一番上の姉あき(天明留理子)はクニ(本土)で暮らしている。

    本土から赴任して来た小学校の教師志水(成瀬正太郎)が道に迷ったのを
    ちどりが案内した事から、二人は次第に親しくなっていく。
    ちどりを好きで、魚を持って時々訪れる漁師の順平(つかにしゆうた)は
    そんな二人を見て心中穏やかではいられない。
    志水に対して攻撃的な言葉を投げかけ、ついにちどりから
    「もう来ないで」と言われてしまう。

    東京の姉から「東京で働きながらもっと絵を見てもらえば」と誘われ、
    志水からは「結婚して八丈島で暮らそう」と言われたちどりは激しく迷うが
    その直後志水が行方不明になるという事件が起こる。
    そしてついに事態は最悪の結末へと向かってしまう・・・。

    前半少し状況説明に時間が費やされるので展開が遅い印象を受けるが
    移住のいきさつや志水の性格、島に残ることを選んだかやの心情などが
    丁寧に描かれ、後の展開にそれらは大事な情報となる。
    志水との恋、順平の嫉妬等が描かれるに従ってテンポは上がり、
    空間が引き締まってくる。
    緊張がマックスに達するのは、ちどりが順平に問いかける場面だ。
    志水が浜で拾ってちどりと一つずつ持っていた南方産の大きいつやつやした豆“モダマ”、
    そのモダマを、なぜ順平が持っているのか・・・。
    その順平に対して声も荒げず、淡々と志水のことを語るちどりの台詞に
    私は動悸が激しくなるほど緊張した。

    八丈島の方言がやわらかでどこか懐かしく、初めて聴くのにすんなり解る。
    長い旅の果てに八丈島へ流れ着いたモダマという植物が、運命を象徴するようで美しい。

    ちどり役の高木充子さん、気負わず自然体で
    少しずつ志水に傾いていく様が清潔感を持って伝わってくる。
    過酷な運命を受け容れてこの先どう生きて行くのか、
    寄り添いたくなる魅力的なキャラクターだ。

    母屋に住む姉夫婦の夫誠を演じた佐藤達さん、
    順風満帆とは行かないちどりを、温かく見守る義兄の台詞が実に上手い。
    衝突しがちな姉妹の間で緩衝材となる明るいキャラにほっとする。

    漁師の順平を演じたつかにしゆうたさん、
    志水に対する敵対心むき出しの台詞に、ちどりを思う気持ちが溢れている。
    その気持ちが暴走して身を滅ぼす男を、身勝手ながら哀れにも感じさせる表情が良い。

    この話の30年後を描く「2013」では、ちどりが産んだ子どもが
    八丈島を訪れるというストーリーらしい。
    波の音が聴こえる部屋を出て、ちどりはどんな人生を歩んだのだろう。
    “東京から南へ300キロ”、そこに暮らす人々の言葉は今も昔のままだろうか。

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    2013/02/10 20:50

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