東京コンバット2013 公演情報 ハム・トンクス「東京コンバット2013」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    要通訳
     設定は大阪・東京間戦争である。劇中、東京の人間には大阪弁が、大阪の人間には東京の「標準語」が分からなくなっていることが、恐ろしい。
     戦争が始まるまでは、TVでも互いの文化圏の番組が流れていたわけだし、親族・倦族が、敵対する地域に住んでいる場合も多々あろう。就学、就職、転勤などでも様々なケースがあったはずであるのに、一旦、戦争ということになると、分かっても分かったと言った途端、スパイ扱いされ、銃殺されるということがあり得る。そのような恐ろしさまで意識して描いているとすれば大したものである。

    ネタバレBOX

     東京対大阪の戦争が始まっているが、原因などは一切触れられない。唯、互いの上層部は、戦略が漏れることを恐れてか、自軍の実行部隊に他部隊との関係などの詳細は、一切教えていない。戦局は大阪有利、既に名古屋は大阪側に落ちている模様。東京軍は、大阪軍迎撃・撃滅を目指して、敵の戦車を一網打尽にする為の作戦を開始。その準備作業に5つの部隊を派遣した模様だが、事実関係は、ハッキリしない。
    対する大阪軍も負けてはいない。巧みなスパイ戦略で一歩一歩、東京に近付きつつある。そのスパイ戦略とは、所謂HUMINT。人間が直接タッチするタイプの活動である。潜入したスパイが優秀な場合、味方の損失は相当大きいことを覚悟する必要がある。
    幕開きは、軍事ヘリコプターのけたたましい到着音で始まる。かつてアトリエだったビルの一室に展開するのは、3人の兵士と2人の民間測量技師。先ず、兵士達が、室内の安全を確認し技師達が測量できるようなスペースを確保した後、開口部を固め、リーダーが、外を確認しに行く。そこへ東京軍と名乗る負傷戦車兵が駆け込んでくる。然し、無暗に彼の言葉を信じる訳にはゆかない。ここは、戦場なのである。すったもんだがあるがそこへ、リーダーの軍曹が、敵の狙撃兵を捕まえて帰ってくる。然し、東京軍には、捕虜にした大阪の狙撃兵の言葉が分からない。その通訳をしたのが、かつて大阪の大学に通っていたと言う戦車兵であった。巧みな人心掌握術と言葉のギャップを利用した捕虜との会話で、大阪のエージェントは、仲間を救済するという初期の目的を達した上、銃を所持することを許されるまでに信頼される。
    この劇団の上手さは、この時点で、戦車兵が大阪のエージェントだということを観客に分かるようにしている点である。つまり観客が推理する余地を予め奪い、スパイを早くからそれとわかるようにして置きながら、彼が決定的行動を中々起こさないことで、いわば爆発時刻が分からない時限爆弾を抱えているような緊張感を、劇の開始早々からずっと重奏低音として観客の心の中に鳴り響かすのである。更に、このテクニックを見破った観客には、戦車兵が行動を起こさない合理的理由が、物語の筋として仕掛けられる。即ち、間近に迫った大阪軍との戦闘で、スナイパーは大阪軍に殺されてしまう。つまり、優秀なエージェントには、大阪方も実行部隊同志に正確な情報を教えていないのではないか? という自問が付きまとう。これは、彼の行為を遅らせる充分な理由である。エージェント自身、何時何処で味方に殺されるか分からないような情況に追い込まれ、何時行動を起こせば、最も成功率が高く、当初の目的を達成できるかについても不確実性が高くなっている。
    自分が、今生きている事以外に信じられるものが何も無いような位置に人間を置くものが戦争であるならば、スパイもまた同じ情況に置かれているのである。
    敵味方さえ定かでない不信感渦巻く央で、散発的な戦闘が繰り返され、一人、また一人と命を落とす者が出る。この時、登場人物各々にどんな精神的危機が出来するか考えながら観るのも一興だろう。いっぺんに皆死んでしまわない所も緊張感を盛り上げるのに役立っている。ただ、この緊張感を最後迄持続させた理由の最大の物は、時限爆弾に例えたスパイの決定的行動が、中々起こらないことだ。が、最終的にどうなるかは、観てのお楽しみとして、幕切れは目を負傷して最後迄生き残った東京軍の兵とエージェント、どちらの側の救援か分からないヘリコプターが到着したホバリング音と暗闇の中、サーチライトのように一定の周期を置いて出入り口を照らすランプの異様な緊張感で暗転する。美しい幕切れ、見事である。

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    2013/02/07 14:09

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