祈りと怪物~ウィルヴィルの三姉妹~【KERAバージョン】 公演情報 Bunkamura「祈りと怪物~ウィルヴィルの三姉妹~【KERAバージョン】 」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    どこまでもKERAさんっぽいのにまるでギリシア悲劇のよう
    4時間10分もの大作なのに、面白い!
    KERAさんの脚本を、KERAさんと蜷川さんが別々に演出するという挑戦的な企画。

    ネタバレBOX

    舞台となるウィルヴィルとは、「海と火山に囲まれた、小さな島」にあるという。
    これって、「日本」じゃないか、と思う。

    未来なのかいつかなの、あるいは気がつかないだけで、今の日本の話なのかもしれない。

    「苦痛で電気を起こす」というシステムが登場する。
    その電気で拷問にかけるための電気を起こすという設定まである。
    「苦痛で電気を起こす」っていうのは、原発事故を起こしている、今の日本じゃないか、と思ったりもする。それは深読みしすぎか。

    そこは「欲望」という怪物が当然の顔をして居座っている。
    そして、命が軽い世界でもある。

    ますます日本というか、この世界のことではないだろうか、と思う。

    普通ストーリーには軸となるモノがある。今回の場合は、タイトルとなっている「三姉妹」がそうであろう。
    その軸に、「不安定」「不確定」の要素が絡み物語が動き出す。

    今回は、その「不安定」「不確定」の要素が多い、三姉妹の祖母と双子の老婆とその息子、密航者、錬金術師の弟子、地下組織、宗教と。
    どれもに、それぞれの濃い設定があり、それによって物語がどうのように動くのかがポイントとなってくる。
    先がまったく読めないのだ。だから4時間10分もの大作でありながら、惹き付けられ、面白いと感じるのだ。

    ただ、そういう要素が多すぎるため、軸が少々ぼやけてしまったような気がする。軸となるのも、1人の娘ではなく、三姉妹だし。

    暗い笑いが舞台の上にある。
    ちょっと顔が引きつるような笑いもある。
    ただし、下品にはならず、その下に常に何かを秘めているようだ。
    それがKERAさんぽいなと。

    やっぱり行き着くのは「家族」のこと。
    どの家族も絆は深い。
    欲望の怪物になる双子の老婆とその息子の関係も、どんなになっても断ち切れない。仕立屋とその娘、メイド夫婦とその子ども、そして三姉妹と親。

    外に対してはどんなことでもするのに、家族だけは大切にしている。
    これは、今の日本に対するメッセージではないだろうか。
    皮肉ではなく、ストレートなメッセージ。

    ラストに向けて、欲望にまみれた人々はそれぞれにふさわしい「罰」を受ける。
    それは「罰」とも言えるし、単なる「結果」「運命」とも言える。

    三姉妹の父、ドン・ガラスは、すべてを失い、生き残ってしまうという「罰」を受けるのだ。
    家族も部下も何もない世界に1人。
    悪態をつきながらも、教会に寄りかかる。
    悪態には、実は感謝の気持ちが現れている。
    教会でもらった毛布にくるまりながら、「ちょっとは褒めてやってもいいよ」と教会に向かって声を掛ける。
    少し甘いかもしれないが、彼がたどり着いて先がここだった、ということなのだ。

    音楽がパスカルズで、生演奏だった。
    これがもの凄く舞台内容とマッチしていた。
    演奏だけでなく、舞台に上がっても、印象的。
    そう言えば、かつてKERAさんの主宰していたナゴムレコードに、パスカルズの石川さんがいた、たまがいたんだよなーと。

    コロスの登場、日本っぽい設定、ギリシア悲劇のような雰囲気、こういう要素や構造は、蜷川幸雄さんが好物としているものではないだろうか。
    だから、KERAさんは、敢えてそういう要素を入れてきたような気がする。
    これは変化球を蜷川幸雄さんに投げたのではなく、直球勝負に出たのではないだろうか。
    「お手並み拝見」と(笑)。

    長時間の公演時間で、面白かったのは確かなのだが、いかんせん、長い。
    しかも休憩時間が10分は短すぎ。
    女性だとトイレにいけるかどうかだ。
    夜の回だと18:30に開演して、23時近くになってしまう。
    食事を取るタイミングがないのだ。
    キツイなあ。
    例えば、新国立劇場であれば、終演後でもレストランが開いていたりするし、軽食も食べる時間があったりする。
    そのあたり改善されるとうれしいのだが。

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    2013/01/25 14:57

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