埋める日 公演情報 スポンジ「埋める日」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    観客を信頼して成立するストーリー
    最小限の台詞で紡ぐ母親の葬儀の日の出来事。
    舞台上に再現された団地の一室のセットが素晴らしく緻密かつリアルで
    これから始まる物語の繊細さを予感させた。
    そこで繰り広げられた人間模様は、大胆なプロセスの省略によって
    より人間関係が際立つ結果となった。

    ネタバレBOX

    劇場に入ると緻密なセットに目を奪われる。
    古い団地のリビングダイニング、流しの上の棚に置かれたジューサーや
    下がっている手拭きタオル、冷蔵庫と流しの間の可動式ワゴン、
    茶箪笥の中の湯のみ茶碗、隣の畳敷きの部屋のソファ、古めかしい額…。
    全てが“誰かの日常”であり、私はそれを覗いている感じがする。

    やがてここへお骨を抱えた一族が帰ってくる。
    海外出張から飛んできた長女(横山美智代)と秘書らしい男、
    この部屋に住んでいた死んだ母親と同居していた次女(太田雪絵)と夫、
    葬儀屋の男である。
    後から、葬儀に参列しなかった三女(如月萌)とBFのDJの男もやって来る。

    この葬儀を終えたばかりの人々の心に、さざ波を立てるような出来事が次々に起こる。
    例えば次女の浮気の発覚。
    これには伏線があって
    母親の介護を次女に押し付けて、君は何も手伝わなかったのかと問うDJに三女は答える。
    「だってそんなこと言えない雰囲気ですごかったんだもん」(みたいな意味のことを言った)

    浮気が発覚したあと三女に激しく責められ、つかみ合いの喧嘩になった時
    次女は短く本音を叫ぶ。
    これが本当に短い。
    言い訳にもならないほどの短い台詞を吐くのだが、
    そして次の瞬間舞台は場面転換する。

    次のシーンで、三人は何事もなかったように談笑している。
    次女が叫んだあのあと何が起こったのか、それが何となく判るのは何故だろう。
    それまでの三人の言動や、互いの行動を見る目からごく自然に判ってしまう。
    この“説明せずに場面転換”して話を切り上げる方法が何度か見られたが
    その都度この省略に違和感はなかった。

    むしろよくある話なら結論だけ伝えてくれればいいのだ。
    省略されるにはそれだけの理由があって、つまりプロセスは大したことではないのだ。
    大事なことは「浮気がバレた」→「別れるか否か」→「別れない」ということであって
    その結果を見ればこれまで築いてきたものがおのずと判る、ということだと思う。

    この舞台で完全暗転は1回だけだったと思う。
    ほかはソファの部屋のテレビが砂嵐のように明るく点いて
    その間に出演者は自然に(時には言葉を交わしながら)小道具を持って移動する。
    この場面転換が新鮮だった。
    荷物を持って出て行ったり、グラスを持ってソファへ移動したりする人々を見て
    そこに時間の経過を自然に感じる。
    真っ暗な中を黙って“段取り”に奔走するだけが場転ではないのだと思った。

    淡々としたストーリーながら登場人物の緊張感が素晴らしく
    観ている方も緊張して手に汗握ったりするものだから
    メリハリがついて飽きさせない。
    田所(牧野はやと)が流しの開きを開けようとした時
    その場にいる全員が一斉に包丁を遠ざけようとダッシュしたが
    あの時は観客も同時に駆け寄る気分だったと思う。
    そういう一体感が生まれるような緊張感の共有があった。

    斬新な場面転換と省略によって、物語は削ぎ落されたように骨格を露わにする。
    敢えて言わずに想像させる、そして大体それは当たっている、という
    観客を信頼して成立するストーリーが面白い。
    それにしてもスポンジ、繊細な台詞と大胆な演出をする劇団だなあと思う。

    掃き出しのサッシを開ける度にマンションの新築工事の轟音が聞こえる。
    元は廃校となった小学校で、そこから何か四角い箱が掘り出されたという。
    「埋める日」に「掘り出されるもの」「埋め戻すもの」様々が去来する話だった。

    0

    2012/12/27 03:51

    0

    0

このページのQRコードです。

拡大