満足度★★★★★
圧倒的表現
東日本大震災と福島の原発事故に触発されて書かれた戯曲が、独特の台詞回しと動きによる演技と、斬新な音楽・美術・照明で具現化され、圧倒的なクオリティーの舞台となっていました。
明るいままの客席内を通って登場した5人の役者が執拗に「あなた」、「わたし」、「わたしたち」と繰り返して観客も当事者であることを思わせて始まり、金属製の大きな緞帳が上がり、音楽、原子力、水をモチーフにしたテクストや、3.11以降の不安な日々を思い出させるようなテクストが、会話の形になっていない断片的で詩的な表現で連想ゲームのように続き、最後に緞帳がゆっくりと降りてきて劇場内が暗闇になって終わる、緊張感に満ちた105分間でした。
イェリネクさんの文体と地点のスタイルの相性がとても良く、様々な声の表現が豊かに展開していました。内容はあまり理解出来なかったにも関わらず、様々な場面で心を揺さぶられるという不思議な感覚がありました。
役者4人の体に電流を流すことによってを動きを同期させるシーンは、社会とエネルギーの関係を考えさせられました。
最初から最後まで頭を下にして足の甲から先だけが見えるという、まるで遺体が並ぶ様を思わせる状態で歌った12人の合唱も素晴らしかったです。ヴァイオリンの開放弦の音で構成された曲や、羊(昔は腸がヴァイオリンの弦に使われていました)の鳴き声のように歌う曲によって、登場人物である第一ヴァイオリンと第二ヴァイオリンを暗示させていたのも良かったです。
羊の鳴き声は立ち入り禁止区域に残された動物達のことも連想させ、何とも言えない気持になりました。
奥に向かって絞られた形状のセットが斬新で、急勾配の床の上で役者達が並んだり寝たりする姿がとても美しかったです。床ではなく塞がれた天井面に長く伸びた役者の影が、世界が反転したみたいで強く印象に残りました。
照明器具がどこにも見えないのに多彩な変化を見せる照明や、客席の上空をヘリコプターが飛んでいるように感じさせる立体感のある音響等、スタッフワークも素晴らしかったです。
表現は前衛的ですが、地震と原発事故を体験した人なら何かしら感じる所のあるであろう作品で、これだけの完成度なのにたった3公演しか行われなかったのが勿体なく、是非とも再演や海外公演を行って欲しく思いました。