完全版・人間失格 公演情報 DULL-COLORED POP「完全版・人間失格」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    生き物のような舞台
    太宰治が描く世界を取り込んで、
    でも、その物語を展開するだけの舞台ではありませんでした。

    舞台自体が太宰の描く主人公を纏った生き物のように思えました。

    ネタバレBOX

    最初に女性版(11月4日)、中1日おいて男性版(11月6日)を。ちなみにWIP(男性版)も拝見していて。

    冒頭の数シーンに、
    役者が観る側を取り込む術があって・・・。
    そこからの舞台の広がりが唐突に感じられず、
    だからこそ、会場の空気の揺らぎにそのまま取り込まれる。

    それでも、暫くは、舞台に語られる物語を追う意識があったのですが、
    やがては、舞台の空気が一人の男の感覚に置き換わり、
    そのなかに巻き込まれてしまったような気持ちになって。

    舞台には何人かの役者が背負う一人の男のコアの部分と
    彼に関わった人間たちが
    描き分けられてもいるのですが、
    それを第三者的に俯瞰するのではなく、
    刹那ごとの男の心風景をもらったように感じ取っている・・・。

    あとで思い返してみると、役者たちの秀逸な演技は
    観る側に媚びることなく
    豊かな創意とともにそれぞれのキャラクターや刹那を
    紡ぎあげていて。
    でも、この舞台にはそれを主人公の感覚として
    観客に見せる力があって。
    なんだろ、物語をもらって置き換えるひと手間を省いて
    直接舞台に描かれる世界を受け取っている感じ。
    切り取られていく時間が
    しなやかに揺らぎ、ライブ感を醸し出し、
    記憶の如くに
    物語に積み上げられていくような・・・。
    主人公を取り巻く女性たちも
    デフォルメされているのに
    形骸化されている感じがまったくなく
    描かれた瞬間ごとがとてもビビットに思える。
    台詞の遊び心や、音や光が、
    舞台のリズムや鼓動を際立たせる。
    舞台自体が呼吸する生き物のようにすら感じて・・・。

    WIPで観たシーンも盛り込まれていましたが、
    その時にあったシーンからやってくる強い印象が、
    舞台に置かれるとテイストの一つとして
    空気を支える存在になっていることにも目を瞠る。
    この作品が、実は作りこまれたたくさんの立体的ニュアンスと印象の
    コラージュ的な側面を持っていることにも思い当たって。
    それらを束ねる作り手の手腕と
    一つずつのパーツを編み上げていく役者たちの底力に思い当たり、
    あらためて圧倒されたことでした。
    また、その秀逸は、
    円形の舞台の全方位に生まれるミザンスだからこそ
    よりふくよかに映えるものであるようにも思え、
    閉館が予定されているという
    この劇場の魅力をを再確認したりも。

    女性版と男性版では顛末が少し違っていました。
    男性版では物語の流れが、
    そのまま、踏み出して結末に至った感じ。
    様々な色の表現の重なりに、
    ふっとブランクのような白が生まれたようにも思えて、
    一瞬息が止まる。
    一方で女性版は描かれたものを
    もう一層の外側をつくって納めて見せて。
    そこに作者一流のウィットを織り込み
    更なる俯瞰を組み上げる。
    生き物のような舞台でも、バージョンごとに、
    道程に微妙に異なる肌触りが作りこまれていて。
    それぞれの世界を、躾け、手懐ける、
    作り手の手腕にも舌を巻く。

    男女版どちらも、観終わって、
    やわらかな高揚があって、
    舞台が与えてくれた達観や諦観も残り
    でも、なによりも、ガッツリ消耗していることに気付いて。
    観る側をして、自覚させることすらなく、
    貪らせるように舞台に惹き込む、
    この作品の力に改めて思い当たったことでした。

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    2012/11/11 09:23

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