満足度★★★
シュールで味わいのある下町群像劇
黒沢明の映画『どですかでん』の原作でもある山本周五郎の小説を舞台化した作品で、よくある下町人情喜劇からベタに泣ける部分をなくして笑いもシュールにしたような、不思議な雰囲気の群像劇でした。
一日電車ごっこをする知恵遅れの男、2人の建築工事の職人とそれぞれの妻、新しく引っ越してきた夫婦、口では国の将来を憂いつつ何もしない男といった、どこか変な所のある人々が生活する様子が物語的に盛り上がることもなく、あたかも同じ日がループして繰り返されるように淡々と描かれ、物悲しさと逞しい生命力が感じられました。
所々で起こる、突拍子もない台詞のやりとりや行動が笑えました。
6つのバラック小屋と、うなぎ屋のインテリアのセット、共同の水道を動かして場面を変えていく、ダイナミックな美術が面白かったです。終盤、地震が来たかのように小屋がガタガタ震え出すシーンが印象的でした。
個性的な役者が多く出演していて、ドラマ性がないにも関わらず楽しかったです。特に放浪する老いた男(飯田孝男さん)と幼い息子(池袋遥輝くん)のコンビのやりとりにしみじみとした味わいがあって魅力的でした。
不破大輔さんによる音楽(演奏は渋さ知らズ)は哀愁とエネルギーに充ちていて、作品の世界観に合っていました。