満足度★★★★★
コミュニティーからの疎外
新国立劇場オペラ部門の2012/2013シーズンのオープニングを飾る作品ですが、それにふさわしい華やかさや娯楽性が全くない、陰鬱な後味が残る作品で、話題性ではなく内容で勝負しようとする劇場の意気込みを感じました。
音楽的にも演劇的にも満足出来る、素晴らしいプロダクションでした。
美術がシンプルで抽象的であること以外は設定の読み替えや派手な効果もないオーソドックスな演出で、救いようのなさが強烈に伝わって来て、最後まで緊張感が途切れることがなく、観た後の疲労感が凄かったです。
イギリスの漁村で、ある漁師が若い徒弟を事故で死なせてしまったことから良からぬ噂が立って村八分状態になり、そのことによって更に悲劇が連鎖する痛ましい物語で、音楽も暗い雰囲気が支配的で、楽しい曲調の部分も逆にシニカルで恐ろしく聞こえました。
主人公の転落していく人生を表すような急勾配の床と、コミュニティーの閉塞感を象徴するような2枚の大きな可動壁と荒波を描いた背景画だけの真っ黒な空間の中で、現代にも通じる閉じたコミュニティーが持つ暴力性が描かれていました。
主人公のことを信じて助けていた2人も最後には仕方なく多数派に回ってしまうことを、わずかな動作だけで示していて、静かながらも衝撃的な幕切れでした。
黒・白・赤に限定した色彩設計が物語に合致していて効果的で、見た目もスタイリッシュでした。影を壁に映し出す演出が印象的なビジュアルとなっていて美しかったです。
大勢の合唱隊の扱いもスマートで、オペラの合唱にありがちな小芝居感や段取り感のない自然な立ち振る舞いで、ドラマに引き込まれました。
2つのシーンを表す楽想を交互にまたは同時に響かせたり、緊張感のある持続音や長い沈黙を用いた、演劇的表現力のある音楽が恐ろしくかつ美しく、魅力的でした。
旋律や和音の音を持続させながら次の音を重ねるベルトーンの手法を多用していて、ひんやりとした神秘的な寂寥感がありました。
ソリスト、合唱、オーケストラも非常にレベルの高い演奏で素晴らしかったです。
2013/01/15 10:24
2013/01/02 12:42
2012/10/15 01:10
2012/10/14 09:41
2012/10/13 15:03
コメントありがとうございました。返事が遅くなってしまい申し訳ありません。
オペラは同じ演目が何度も上演され続けるので、過去の名演を経験してしまうとなかなか満足出来る公演に巡り会えないですよね。
現時点で観に行く予定なのは、新国立劇場オペラ研修所の『カルディヤック』、二期会の『マクベス』、バーゼル歌劇場の『フィガロの結婚』のみで、今年は個人的に興味を惹く演目があまりないのが残念です。