今夜此処での一と殷盛り 公演情報 風雷紡「今夜此処での一と殷盛り」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    探偵は二階にいる
    大正13年、長野県諏訪で謎の多い凄惨な事件が起こるまでと、
    昭和22年東京大森の探偵事務所での謎解きが交互に照らし出される構成。
    暗い歴史のリアルさとコミカルな探偵事務所のやり取りのバランスが素晴らしく
    演出の妙を堪能した舞台だった。

    ネタバレBOX

    劇場に入るとまず囲炉裏を切った土間のある古い家が目に入る。
    部屋の壁には柱時計が3つ、いずれも紐でぐるぐる巻きになっている。
    上手2階の高さには御簾がかかっていて、その奥に部屋があるらしい。
    庭の垣根の前に糸車が置いてあり、
    この糸車が照明に浮かび上がってひとりでに回るところから舞台は始まった。

    御簾の奥は探偵事務所、と言っても野崎(谷仲恵輔)が間借りしているささやかな部屋だ。
    昭和22年、ここへ一人の少女(吉永雪乃)がやってきて
    「先日亡くなった祖父のことを調べて欲しい」と依頼する。
    謎の多い祖父の人生、大量殺人事件の噂、一夜にして地図から消えた村、残された遺書など観ている私たちも、事件の真相を知りたくなってくる。

    古民家の囲炉裏端は大正13年の長野県姫淵村である。
    養蚕業が成り立たなくなってからというもの、ここでは村の娘を売って生活していた。
    「見目がよければ宿場町、手先が起用なら工場町」という言葉の通り
    お婆様(横森文)の占いによって決められ、売られていく。

    やがてこの村を支配する御子柴一族の複雑な人間関係や
    それがもたらす歪んだ憎しみが明らかになっていく。
    一族の言うままに娘を売ることになった一人の父親が絶望して首を括り、
    母親は村と因習を呪ってついに凶行に及ぶ・・・。
    そこに行き着くまでに、彼らを取り巻く人々の優しさと悲しみが丁寧に描かれているので
    このおどろおどろしい出来事が本当に哀れに思われる。

    片目のお婆様を演じた横森文さん、凄みがあって存在感ありまくり。
    東京から戻った御子柴家の長男太一郎を演じた及川健さん、
    育ちの良さが透ける涼やかな声と容姿ながら、母親への屈折した思いが滲んでいた。
    この村の因習を断ち切ろうとするかのような壮絶なラストが強く印象に残る。
    そして探偵野崎役の谷仲恵輔さん、表情がイマイチはっきり見えない御簾越しの演技だが
    大仰な動きと声がコミカルな味を出して、暗い時代との対照が際立つ。
    中原中也の詩の朗読も、次第に哀愁を帯びるように変化していってとても良かった。
    大家のお駒(吉永恭子)との掛け合いも息が合っていて
    “二階の探偵”シリーズになりそうな雰囲気。

    ちょっと物足りなかったのは、
    少女のお世話係としてついてきた、鍵を握る女性累(松葉祥子)が
    情報を小出しにして真実へと探偵を導いたその真意がイマイチわからないこと。
    “火サスの崖”じゃないけど、最後に累がその出自や本心を語ってくれたら
    もっとわかりやすく、腑に落ちたんじゃないかなあという気がした。
    私の理解力不足かもしれないけど・・・。

    オープニングの音楽や舞台の作り、脚本構成すべてが厳選されていて
    そこに役者がぴたりとはまりこんでいる。
    御簾がかかると照明が柔らかくなり、悲惨な時代とのコントラストがより強くなる。
    明と暗、軽と重、強と弱、その計算され尽くした対比の結果、時代と人の心が一層浮き彫りになった。

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    2012/08/19 23:00

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